離婚でよく聞く強制執行って何?

離婚でよく聞く強制執行って何?

離婚調停や離婚裁判で、財産分与や離婚慰謝料等の諸条件について確定した後に、相手がそれでも財産分与に応じない・慰謝料を支払わないという場合に、相手に対して、強制的に金銭を請求する方法である強制執行という手段があります。

今回は離婚における強制執行について解説していきます。

強制執行とは何か

強制執行とは、国家機関が、債務名義に表示された権利の強制的実現を行う制度です。 
※債務名義とは、離婚の場合ですと、協議離婚の場合には、公正証書であり、調停離婚の場合には、調停調書、裁判離婚の場合には、判決書のことをいいます。 

<参考記事>

「離婚における公正証書とは?作成費用や作り方・効力について解説」

強制執行は何のためにする?

裁判で勝訴することで、望み通りの条件で、離婚が認められるとの判決が出た場合でも、直ちにその条件通りに金銭をもらえるわけではありません。

相手方が、判決が出たにもかかわらず、いまだ支払いを拒絶している、払おうとしないという態度に出ることも十分考えられます。

そこで、判決の結果を実現させるために、強制執行という手続きが利用されるのです。 

強制執行には、二種類の執行方法がある

強制執行の種類

  • ①金銭執行
  • ②非金銭執行

【金銭執行】

一つ目は、金銭執行といって、請求権が金銭の支払いの場合に行われるもので、強制的に換価する対象によって、不動産執行・動産執行・債権執行に大別されます。 

簡単に言うと、相手の不動産を強制的に売却させて、金銭の給付を受ける場合には、不動産執行、相手方の高価な宝石などを強制的に売却させて、金銭の給付を受ける場合には、動産執行、相手方の債権から強制的に支払いを受ける場合には、債権執行ということになります。 

【非金銭執行】

二つ目は、非金銭執行といって、物の引き渡し請求権などの金銭の支払い以外の場合に行われるものとなります。 

川口晴久
弁護士

離婚に特有のものについては、子供の引き渡し執行などの場合に使われることがあります。

 

強制執行はどこが行う?

それでは、先ほど国家機関が強制執行を行うと言いましたが、実際には、どの機関が行うのでしょうか。

強制執行の執行機関は、執行裁判所と執行官になります。 

※ 執行官とは、裁判所の事務職員で、執行を担当する者のことです。 

このうち、どちらが執行機関となるかは、強制執行の目的物および種類によって決まることになります。

動産に対する金銭執行と物の引渡し執行については執行官が、その他の強制執行については、執行裁判所が執行機関となります。 

執行裁判所は、原則として、地方裁判所になりますが、代替執行または間接強制については、第1審裁判所または調停の成立した裁判所が執行裁判所となるため、家庭裁判所が執行裁判所となることもあります。

川口晴久
弁護士

代替執行や間接強制については、次に解説させていただきます。 

強制執行の方法

強制執行の方法は、直接強制・代替執行・間接強制に分けられます。

直接強制 

一つ目は、直接執行です。

これは、さらに直接強制としての金銭執行と引渡執行にわけられます。 

(1)債権執行 

債権執行とは、金銭債権を目的とする強制執行のことです。

債権執行は、差し押さえにより開始され、その後は、原則として債権者自らが目的債権を取り立て、換価についても執行手続外で債権者が行うことになります。 

債務執行の流れ

債権者が裁判所に対し差し押さえ命令を申し立てる
この時、申し立てる裁判所としては、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所、普通裁判籍がない場合には、差押債権の所在地を管轄する地方裁判所となります。 
この普通裁判籍というのは、簡単に言えば、その人が住んでいる住所地のことです。 
執行裁判所が申し立ての要件を職権で審理し、適法と認めれば、債権差押え命令を発する
これによって、債務者は差押え債権の取立て、譲渡等の処分が禁止され、第三債務者(債務者の持つ債権の債務者のことをいう)は債務者への弁済を禁止されることになります。 
裁判所書記官は、債権者から陳述催告の申立てがなされた場合には、第三債務者に対し、差押え債権の存否、弁済の意思の有無等を陳述すべき旨を催告する。(民事執行法147条)
第三債務者は手続き上の陳述義務を負う。 
債権者は、以下のような方法により、差押債権者から満足を受けることになる
ア 差押債権者は、差押命令が債務者に送達された日から1週間を経過すれば、第三債務者から差押債権を直接取り立てることができるが、差押え債権が給料や退職金等の差し押さえ禁止債権である場合は、原則として1週間から4週間に延期されることになります。 
イ 差押債権者は、転付命令により、請求債権および執行費用の支払いに代えて、差押え債権の転付を受けることができます。 
ウ 差押債権の取立てが困難な場合には、譲渡命令により、債権の譲渡を受ける、売却命令により、執行官が差押え債権を換価するなどの方法があります。 

✅ 債権執行は、差し押さえるべき債権さえ判明していれば、簡単、迅速、安価に債権を回収できるものといえますが、債務者が有している債権の種類・金額等は外からは容易にわからないため、執行可能な財産をいかに発見するかが債権執行が成功するかどうかの分かれ目となります。 

(2) 不動産執行 

不動産執行には、強制競売強制管理の二種類があります。

強制管理というのは、裁判所が差し押さえた不動産を管理人に管理させ、その不動産から生じる収益を収受ないし換価して、債権者への弁済に充てる手続きのことをいいます。 

それでは、不動産強制競売の手続きについて、簡単に解説します。 

① 債権者が裁判所に対し、競売を申し立てる 

② 執行裁判所は、申し立ての要件を職権で審理し、適法と認めれば強制競売開始決定をする 

③ 執行裁判所は、執行官に対し、現況調査命令を発し、執行官は、目的不動産の形状、占有関係等の現況を調査する 

④ 執行裁判所は、評価人を選任して不動産の評価を命じ、評価人は評価をする。 

⑤ 裁判所書記官は、目的不動産の現況、権利関係、買受人が引き受けるべき権利の存在等を明らかにした物件明細書を作成する。 

⑥ 裁判所書記官は、売却の方法を決定し、その日時・場所を定め、執行官に売却させる。 

⑦ 期間入札の場合、買受希望者は入札期間内に買受申し出の保証を提供したうえで入札を行い、執行官は、開札期日において、最高価買受申出人を決定する。 

⑧ 執行裁判所は、売却決定期日を開いて、売却不許可事由の有無を審理し、最高価買受申出人を決定する。 

⑨ 売却許可決定が確定した買受人は、代金を納付し、目的不動産の所有権を取得する。 

⑩ 執行裁判所は、代金を配当または弁済金交付により、債権者に引き渡す。 

✅ 不動産執行は、多額の請求債権の実現に適した手続きですが、費用と時間を要する者なので、簡易迅速な権利の実現には適しないといえます。 

(3)動産執行 

動産に対する執行は、執行官が差押え、換価、配当を行う競売の方法で行います。 

簡単に流れを解説すると、

申し立て→差押え→評価→売却→執行官または執行裁判所による配当

という流れになります。 

✅ 動産執行は、目的物の換価までの期間が短いという利点はありますが、生活必需品等差押禁止財産の範囲が広いため、その90%以上が執行費用すら賄うことができず、執行不能となっています。 

(4)引渡執行 

引渡執行には、不動産の引渡しと動産の引渡しがあります。 

不動産の引渡しの強制執行は、執行官が不動産に対する債権者の占有を解いて、債権者にその占有を取得させる方法で行われます。 

動産の引渡しの強制執行は、執行官が債務者から当該動産を取り上げて債権者に引き渡す方法で行われます。 

代替執行 

次に、代替執行について解説していきます。 

代替執行とは、作為又は不作為を目的とする債務について、執行裁判所の授権決定により債権の内容を実現する権限を債権者側に与えてこれを行わせる執行方法です。 

例えば、廃棄物の撤去や建物の収去、修復など、他の人でもできるようなことをしない場合には、かわりにやってしまうという制度のことです。

もっとも、代替性がない作為・不作為を目的とする債務は、代替執行をすることができません。

川口晴久
弁護士

子供との交流などは、代替性がないとされているため、強制執行の方法としては、間接強制のみになってしまいます。 

間接強制 

間接強制とは、代替性のない作為または不作為を目的とする債務について、不履行の場合に一定額の金銭を債権者に支払うべき旨を命じる決定をすることで、債務者に心理的圧迫を加えて債務を履行させる方法です。

簡単にいうと、相手が約束を守らないなら、約束を守るまで罰金を科すようにするということです。 

離婚に関連するものとしては、子供との交流の間接強制であったり、子供の引渡しの間接強制などがあります。 

強制執行の具体例(面会交流のケース)

それでは、今回は、子供との交流を実現させるための方法について、間接強制をどうするのかについて、具体的に解説していきます。 

例えば、審判で、子供との交流を認めるとの審判が出たにもかかわらず、相手方が数回子供と会わせただけで、それ以降は忙しいなどと理由をつけて、子供に合わせないような場合を想定してみます。 

こういった場合に、子供との交流を復活させるための手段としては、①履行勧告②再度の調停・審判の申立て③間接強制が考えられます。

一つずつ見ていきましょう 。

1 履行勧告 

これは、審判や調停で、子供との交流が認められたにもかかわらず、子供との交流が実施されないような場合に行います。

家庭裁判所は、非監護親(子供と一緒に暮らしていない側)の申し出により、義務の履行状況を調査し、監護親に面会をさせるように勧告することができます。

✅ この履行勧告には強制力はありませんが、当事者間の行き違いによって履行されていない場合であれば、履行勧告によって、面会交流を再開できる場合もあります。 

2 再度の調停・審判の申立て 

調停や審判において定められた子供との交流が実施されない理由を監護親から聞くことで、その円滑な実施に向けて話し合う方法として、再度の調停を申し立てることもできます。

もちろん、審判を申し立てることもできます。

✅ この方法だと、前の調停や審判の内容にとらわれることなく、現状に応じた内容を再度合意または決定できるかもしれないというメリットがあります。 

3 間接強制 

今回のケースでは、子供との交流を認める旨の審判がでているため、債務名義があるといえます。

したがって、子供との交流の実現のために、強制執行を行うことができます。 

川口晴久
弁護士

子供と交流させる義務については、上述したように、代替可能なものではありません。そのため、間接強制をすることができるかが問題となります。 

面会交流で間接強制が認められる基準 

① 給付内容が特定されていること 

間接強制は、相手方にどのようなことをさせたいのかということが、ある程度具体的でなければならないとされています。

それでは、どこまで具体的にされていればよいのでしょうか。 

判例によると、一つの基準として、

①交流の日時または頻度

②各回の交流時間の長さ

③子の引渡しの方法

の3つの要素により、内容が特定しているといえる場合には、間接強制が可能であることを示しました。

もう少し、詳しく見ていきましょう 

・交流の日時または頻度 

これは、ある程度具体的である必要があります。

例えば、1か月に〇回程度という定め方では、日時や頻度は特定されているとはいえません。 

日時や頻度を特定しているというためには、「1か月に2回、土曜日又は日曜日」という定め方をする必要があります。

逆に言えば、この程度の記載がされていれば、日時又は頻度を特定しているといえます。 

・各回の交流時間の長さ 

これについては、1回につき〇時間面会交流するなど具体的に特定しておく必要があります。

半日程度などの表記では、特定されているとは認められづらいといえます。 

・子の引渡しの方法 

これについて、「1か月に2回、土曜日又は日曜日に、1回につき6時間面会交流することを許さなければならない」としたような場合には、当然、面会交流の方法が書かれていないため、特定されていないことになります。 

一方で、子の引渡し方法について「相手方が申立人又は申立人があらかじめ指定した者に対し未成年者らを引き渡す」、「甲県乙市内において、面会を実施し、申立人は、面会交流を支援する第三者を立ち会わせることができる。」などと条件を定めた場合には、内容が特定されているとされました。 

川口晴久
弁護士

これらのように、その条件については、具体的に書いておいた方がよいということを覚えておいていただければよいかと思います。 

また、「協議によって定める」などの条項を入れている場合には、それでは、具体的な内容は協議で定めることを予定しているものと判断され、給付内容が特定されているとはいえないと判断されることがあることに注意が必要です。

間接強制の申し立てを行う

面会交流の内容が特定されている場合には、間接強制の申立てを、審判又は調停を行った家庭裁判所に対して申し立てます。 

その後、裁判所は、債権者(非監護親)から出された資料等を検討し、債権者の損害額、不履行の態様、実効性等を考慮して、裁量により、強制金の額を定めることになります。 

例としては、不履行1回につき、強制金2万円などといったかたちです。

これは、債務者(監護親)の収入によっては、不履行1回につき20万円の強制金になったりします。 

以上が、強制執行の一例です。 

まとめ

強制執行を申し立てる手続きは複雑なため、弁護士に依頼すると安心でしょう。

また、逆に強制執行を受けた場合についても、今回は書いていませんが、請求異議の訴えなどいくつかの方法をとることで、強制執行を排除することができる場合もあります。

相手方が判決等にしたがってくれなくて困っている、あるいは、強制執行を受けたがどうすればよいかわからないなどの悩みがある場合は、弁護士に相談することで、悩みが解決するかもしれません。 

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