被害者と示談したい
刑事事件では、早期に示談を成立させることで、不起訴処分にしてもらったり、起訴されても執行猶予付き判決を得られるといったメリットがあります。
しかし、加害者が被害者と直接、示談交渉を行おうとしてもうまくいかないことがほとんどです。
この記事では、刑事事件で示談を成立させることのメリット、被害者に支払う示談金の額の相場、示談交渉を弁護士に依頼すべき理由について解説します。
刑事事件における示談とは?
示談とは、話し合いにより解決することで、民事事件では、訴訟に発展することを防ぐために示談交渉が行われることが多いです。
示談は、刑事事件でも意味があります。
刑事事件における示談は、加害者(被疑者)と被害者の間で行われるもので、加害者が被害の弁償と慰謝料の支払いを行い謝罪する見返りに、被害者に被害届や告訴を取り下げてもらうことを目的に行います。
被害者との示談が成立した場合、被疑者となってしまった人は様々な恩恵を受けられることがあります。
示談が成立した場合のメリット
刑事事件で被害者との示談が成立した場合のメリットは次の通りです。
逮捕後の釈放が早くなる
被疑者が逮捕された場合、72時間以内に警察が取調べを行い、送検が行われます。
そして、検察官が、さらに被疑者の身柄の拘束が必要かどうかの判断を行い、裁判所に勾留請求を行います。
勾留請求が認められてしまうと、被疑者は、10日間または20日間もの長きにわたり、身体拘束を受けてしまいます。
裁判所に勾留が認められるまでの間に、示談が成立していれば、検察官が勾留請求をしない判断をして、被疑者が釈放されることもありますし、勾留請求がなされたとしても、裁判所が勾留の必要はないとの判断を下すこともあります。
早期に釈放されれば、社会生活への影響も少なくなります。
検察官が不起訴処分にする
検察官が起訴する前に示談が成立していれば、不起訴処分になることも多いです。
特に、器物損壊や名誉毀損のように被害者の告訴が要件となっている親告罪については、示談成立と共に被害者が告訴を取り下げれば、検察官が判断するまでもなく、不起訴となります。
親告罪以外の犯罪でも、被害者の方に「加害者を許し、加害者の処罰を求めない」といった文書にサインしてもらえれば、検察官が不起訴処分を検討することもあります。
不起訴になれば、前科がつかないため、社会生活に大きな影響が出にくいです。
執行猶予が付きやすい
起訴された後でも、被害者と示談する意味があります。
残念ながら起訴されてしまった場合、ほぼ確実に有罪となり、前科がついてしまいます。
ただ、有罪となり、拘禁刑(懲役刑・禁錮刑)が科されても執行猶予付きの判決が出れば、実際には刑務所に入らずに済むこともあります。
判決が出されるまでの間に、被害者との間で示談が成立していれば、裁判官に良い心証を与えるため、執行猶予付きの判決が出やすくなります。
刑が減刑されることもある
犯罪によっては、初犯でも執行猶予付きの判決が出ず、実刑となってしまうこともあります。
その場合でも、判決が出されるまでの間に、被害者との間で示談が成立していれば、裁判官に良い心証を与えて、拘禁刑(懲役刑・禁錮刑)に服する期間が短くなることもあります。
民事事件で損害賠償請求されない
被害者は、加害者の犯罪行為によって被った損害については、刑事事件とは別に、民事訴訟を提起するなどして、加害者に対して損害賠償請求を求めることになります。
事実無根の冤罪でない限り、不起訴となったとしても、加害者は被害者に対して、損害を賠償する義務が生じます。
ただ、示談が成立していれば、被害者が被った損害も含めて、賠償していることが多いため、別途、民事上の損害賠償請求を求められることはありません。
刑事事件の示談金の相場
刑事事件の示談交渉では、謝罪するとともに、被害者に対して示談金を支払うのが一般的です。
では、示談金としていくら支払えばよいのか気になる方も多いと思います。
結論から言うと、刑事事件の示談金は明確な相場があるわけではありません。
被害者が被った損害の内容や被害者の感情など様々な要素を考慮して、被害者に納得してもらえる額を支払う形になりますから、刑事事件ごとに異なります。
以下では、主な犯罪ごとに示談金の目安を紹介しますが、絶対の数字ではないことに注意してください。
窃盗の示談金の相場
まず、窃盗犯の場合は、盗んだものはすべて返還するのが原則です。
現物を返せない場合や盗んだのが現金の場合は、その分の価額をすべて返還しなければなりません。
それとは別に、被害者が被った苦痛などに対する慰謝料の支払いも必要です。
慰謝料はいくらなら納得してもらえるかは被害者により異なります。
慰謝料も併せて支払う場合は、「盗んだ金額+20万円から50万円」または、「盗んだ金額×2」あたりが相場とされています。
20万円から50万円という数字は、窃盗犯の罰金刑が「五十万円以下の罰金」とされていることが根拠です。
傷害の示談金の相場
被害者を殴るなどしてケガを負わせた場合は、傷害罪になります。
被害者が入院したり、治療を受けた場合は、その費用を全額支払うのが原則です。
また、被害者が入院したことで休業を余儀なくされた場合は、休業による損害も賠償しなければなりません。
それとは別に、慰謝料の支払いも必要になります。
慰謝料の相場については、傷害罪の罰金刑が「五十万円以下の罰金」とされていることから、20万円から50万円が相場とされることもあります。
名誉毀損の示談金の相場
被害者の名誉を毀損した場合の示談金は、慰謝料の意味で支払うことになります。
名誉毀損の罰金刑も「五十万円以下の罰金」とされていることから、20万円から50万円が相場と考える場合も多いです。
ただ、最近の名誉毀損はインターネット上で行われることも多く、この場合、被害者は被害回復のために、発信者情報の開示請求など様々な出費を強いられてしまいます。
こうした費用も併せて支払いを求められることも多いため、事案によっては、数百万円といった示談金の支払いを求められてしまうこともあります。
器物損壊の示談金の相場
器物損壊とは、被害者の持ち物を壊した場合に成立する犯罪です。
器物損壊の示談金の支払いでは、まず、壊した物の価額を全額弁償するのが原則です。
それとは別に、慰謝料を支払いますが、器物損壊の罰金刑が「三十万円以下の罰金」とされていることから、30万円程度が相場とされています。
ただ、壊した物が被害者にとって、大切な物だった場合は、それだけで納得してもらえるとは限らず、多額の慰謝料が必要になることもあります。
示談交渉を弁護士に依頼すべき理由
刑事事件における示談交渉は弁護士に依頼するのが最善です。
まず、示談交渉をするにしても、被害者の氏名や住所が分からなければ話になりません。
しかし、加害者本人が警察や検察に問い合わせても教えてくれないため、刑事事件の被害者が知り合いでない限り、加害者本人が被害者の個人情報を知ることはできない状況にあります。
その点、加害者の弁護士ならば、守秘義務があるため、教えてもらえることもあります。
つまり、弁護士に依頼しなければ、示談交渉すら始められないということです。
また、加害者が被害者と直接顔を合わせると、被害者の怒りが却って沸騰して、冷静な話し合いが難しくなることもあります。
その点、弁護士が相手ならば、被害者としても弁護士に怒鳴りつけるわけにはいかないので、比較的冷静に話し合いを行うことができ、示談も成立しやすくなります。
もちろん、加害者本人が謝罪に来いと言う被害者もいるので、その辺りはケースバイケースになりますが、どう対処すべきかは、慣れている弁護士でなければ判断は難しいものです。
さらに、示談金の交渉にしても、加害者本人が交渉するのは現実的ではありませんし、被害者が法外な請求をしてくることもあります。
そのような場合も、弁護士が対応することで、根拠を示したうえで、適正な示談金額を提示できるため、法外な示談金に悩むことはありません。
まとめ
不起訴処分にしてもらったり、執行猶予付き判決を得るためには、被害者との示談を成立させることが重要です。
しかし、加害者本人が被害者と直接示談交渉を行うことは難しい場合がほとんどです。
示談交渉は、逮捕後、できる限り早い段階で成立させる必要があります。
そのためには、刑事事件の示談交渉に慣れている弁護士にご依頼いただくのが最も確実な方法になります。