息子・娘が事件を起こしてしまった
息子さんや娘さんが刑事事件を犯してしまった場合、親としてはパニックになってしまうと思いますが、まずは、落ち着いて状況を把握することが大切です。
息子さんや娘さんが20歳未満の場合は、通常の刑事事件ではなく、少年事件として扱われます。
少年事件ではどのような処分を受けるのか。
親として少年事件にどう対処すべきかについて解説します。
少年・少女も逮捕されるのか
20歳未満の少年・少女であっても、犯罪行為を犯した場合は、警察による捜査が行われ、司法機関においてしかるべき処分を受けます。
成人であれば、刑事訴訟法に則って、逮捕、起訴、刑事訴訟、判決を経て、刑務所で服役する流れになりますが、少年・少女の場合は、少年法という法律に基づいて、成人とは異なるプロセスで、処分を受けます。
成人と異なり、少年・少女ならば、過ちを自覚させ、更生させることができると期待されているためです。
少年法の少年とは
少年法の少年とは、性別を問わず、20歳に満たない者のことです。
民法では成人年齢が18歳になりましたが、刑事事件では、20歳までは少年として扱われます。
少年が犯罪を犯した場合に、警察が逮捕する点は、成人と同じですが、その後の流れは成人と異なります。
少年事件は家庭裁判所に送られて、家庭裁判所調査官が調査を行い、その結果に基づいて、家庭裁判所の裁判官が審判を下し、保護観察処分、少年院送致などの処分を決定します。
少年法に基づく処分の内容
少年事件について、家庭裁判所が下す処分の内容は次の通りです。
不処分、審判不開始
家庭裁判所は少年に対する調査、審判の過程で、教育的働きかけ(訓戒、指導、犯罪被害について考えさせる講習など)を行いますが、その結果、少年に再非行のおそれがないと判断された場合は、不処分、審判不開始となることがあります。
この決定を受ければ、社会に戻ることができ、進学や就職も自由にできます。
保護観察処分
保護観察官や保護司の指導、監督を受けながら、社会の中で更生することを目指す処分です。
保護司による監督はつきますが、進学や就職は基本的に自由にできます。
児童相談所長送致処分
非行性は高くはないものの家庭環境に問題がある18歳未満の少年に対して下される処分です。
児童相談所長に事件が送られて、児童相談所長が少年を児童養護施設に入れるかどうか判断します。
児童自立支援施設等送致
低年齢の少年で不良行為をした者は、児童自立支援施設に送られて、生活指導を受けます。
一般的には高校生以下の年齢の少年が対象になります。
施設内で小学校や中学校の義務教育を受けることができます。
少年院送致
再非行のおそれがある少年は、少年院に収容されて矯正教育を受けることになります。
少年院に収容されている間は、進学や就職はできません。
ただ、少年院内で教科教育、職業指導を受けることはできます。
検察官送致(検察官逆送)
少年であっても、保護処分ではなく、刑事処分を受けさせるのが妥当と判断された場合は、事件が検察官に送致(逆送)されます。
この場合、刑事訴訟の手続きに則って、起訴されて判決を受けた後、刑務所で服役することになります。
なお、少年事件でも、次の場合は、原則として検察官送致(検察官逆送)しなければならないことになっています。
- ・少年が犯行時に16歳以上で、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた場合
- ・少年が犯行時に18歳以上(特定少年)で、死刑又は無期若しくは短期1年以上の拘禁刑(懲役・禁錮)に当たる罪を犯した場合
少年事件における試験観察処分とは何か?
家庭裁判所が下す処分は上記のとおりですが、試験観察処分という制度もあります。
試験観察処分とは、家庭裁判所が処分を下す前の段階、つまり、家庭裁判所調査官が調査を行う過程で、3ヶ月から6ヶ月程度の期間を設定し、少年の生活態度を観察する制度です。
在宅試験観察と補導委託試験観察の2種類があります。
在宅試験観察は、いったん自宅に帰り、定期的に家庭裁判所調査官の面会を受ける形になります。
補導委託試験観察は、自宅以外の補導委託先に預けられて、生活態度を確認する形になります。
試験観察処分期間中に生活態度が改まった場合は、その後、家庭裁判所が下す処分が軽くなります。
事件を起こした少年が家庭裁判所に送致されるまでの流れ
少年が事件を起こした場合、事件は家庭裁判所に送致され、処分が決まることをご理解いただけたと思います。
では、事件を起こしてから、家庭裁判所に送致されるまでの流れやその過程で、保護者や弁護士がどう行動すべきなのかを確認しましょう。
事件直後
まず、刑事事件を起こしてしまった場合、警察による捜査や逮捕が行われる点は、成人の場合と同じです。
事件が発生した段階では、犯人が少年か成人かは分かりませんから、一律に警察が対応します。
少年であったとしても、犯人ならば警察が逮捕します。
警察は、少年を逮捕した場合でも48時間以内に検察官に送検するかどうか決定します。
検察官に送検された後
少年事件が検察官送致されると検察官は、24時間以内に少年鑑別所送致の観護措置請求を行います。
成人を対象とする勾留請求の場合は、最長で20日間身体拘束を受けますが、観護措置請求は、最長で10日間です。
その間に、検察官は、少年事件を家庭裁判所に送致するかどうか決定します。
家庭裁判所に送致された後
検察官が少年事件を家庭裁判所に送致した後は、家庭裁判所が審判を行うか判断したうえで、次のいずれかの観護の措置を決定します。
- ・家庭裁判所調査官の観護に付する。
- ・少年鑑別所に送致する。
家庭裁判所調査官の観護に付する措置が取られた場合は、少年の身柄は直ちに釈放されます。
ただ、無罪放免になったわけではなく、家庭裁判所による調査はその後も続きます。
少年鑑別所に送致する措置が取られた場合は、その後も身体拘束が続き、その期間は最長で8週間に及ぶこともあります。
少年が14歳未満の場合
上記の流れは、事件を起こした少年が、14歳以上の場合です。
14歳未満の少年の場合は、刑事処分を受けさせられないため、警察から児童相談所に通告または送致されます。
そのうえで、児童相談所が、事件を家庭裁判所に送致するかどうか判断します。
息子・娘が事件を起こした場合に親としてできること
20歳未満の息子さんや娘さんが刑事事件を犯してしまった場合、親としては何をすべきでしょうか。
あえて何もせず、家庭裁判所が下す処分を甘んじて受けさせることも一つの手です。
一方で、一日も早く、社会復帰させたいとか、処分を軽くしてあげたいと願うのも親心と言えますし、そのために何をすべきか悩んでいる方もいると思います。
まずは事件を把握し弁護士に連絡する
警察や学校、児童相談所などから、事件の知らせを受けた場合は、息子さんや娘さんがどのような事件を犯してしまったのか把握することが第一です。
息子さんや娘さんが14歳以上であれば、警察に逮捕された後の72時間以内は、親でも面会することはできません。
警察に問い合わせても、事件の概要については大雑把なことしか教えてくれませんし、被害者は誰なのかといったことも知らせてくれません。
正確に何をしたのかを知るためには、弁護士に依頼して、代わりに面会してもらうしかありません。
弁護士に付添人として活動してもらう
弁護士が少年事件の依頼を受けた場合は、付添人として活動します。
初期にやることは、成年の刑事弁護と同じです。
まず、息子さんや娘さんに面会したうえで、話を聞き、取り調べを受ける際の心構えについて助言します。
もちろん、不利になることはしゃべる必要はないといった話もします。
その際、家族から伝言やメッセージがあれば、伝えることによって、息子さんや娘さんの精神状態を落ち着かせることも試みます。
また、息子さんや娘さんの身体拘束期間が長くなると、学校に通えず、留年や退学などのリスクも発生するため、検察官や裁判所に、息子さんや娘さんの生活環境などについて説明し、逃亡のおそれがないことや証拠隠滅のおそれがないことを主張し、早期に身柄拘束を解いてもらえるように試みます。
更に、少年審判に進んだ場合は、付添人として調査官調査に対応し、処分が軽くなるように弁護活動を行います。
息子さんや娘さんにはもちろん、親御さんにも、調査官調査を受けるにあたっての心構えをアドバイスしますし、様々な相談にも応じます。
弁護士に依頼し被害者との示談交渉を行う
弁護士は警察からも事件の詳細を聞くことができ、被害者の氏名や住所も聞き出せることがあります。
この場合、被害者と連絡を取り、示談交渉を行うこともできます。
息子さんや娘さんが真摯に反省していることを説明したうえで、被害を弁償し、必要な場合は慰謝料も支払います。
少年事件でも、被害者との示談を成立させていれば、その後の処分を軽くできることがあります。
被害者との示談交渉は、親御さんが出向くのではなく、弁護士に依頼しましょう。
親御さんが直接の加害者ではないにしても、やはり、関係者が出てくると、被害者の感情を逆なでしてしまい、示談交渉がうまく進まないことも多いためです。
弁護士が相手ならば、被害者も比較的冷静に話を聞いてくれるので、示談もまとまりやすくなります。
まとめ
息子さんや娘さんが20歳未満の場合、少年事件として扱われますが、身体拘束期間が長くなると、通っている学校で退学処分を受けるといったリスクがあるため、早期に身体拘束を解いてもらえるように試みるべきです。
家庭裁判所に送致されてしまった場合でも、息子さんや娘さんの今後の進学や就職を考えると、できる限り処分を軽くしてもらえるように試みるべきです。
そのためには、弁護士に依頼して、付添人として活動してもらい、警察や検察、調査官調査への対応を行ってもらったり、被害者との示談交渉を行ってもらうことが大切です。