住居侵入、建造物侵入
住居侵入・建造物侵入罪は、人の家に無断に立ち入った場合に成立する可能性がある犯罪です。
比較的刑罰の軽い犯罪ですが、空き巣やのぞき・盗撮の目的で犯すことの多い犯罪なので、住居侵入・建造物侵入罪の容疑で逮捕された場合は、余罪を調べられることもあります。
冤罪のリスクもあるだけに、取調時の弁護士によるサポートや早期の示談成立により身体拘束を解くことが大切です。
住居侵入、建造物侵入とは
住居侵入、建造物侵入とは、「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入した」場合に成立する犯罪です。
また、「要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった」場合は、不退去罪となります。
刑罰は、3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金です。
比較的、刑罰が軽いため、執行猶予が付きやすい犯罪と言えます。
住居侵入、建造物侵入では他の犯罪も成立するケースが多い
住居侵入、建造物侵入は他の犯罪と共に牽連犯となるケースが多く、住居侵入、建造物侵入罪のみで処罰されるケースは少ないです。
牽連犯とは、2つ以上の犯罪を犯しており、それらの犯罪が目的と手段または原因と結果の関係にある場合のことです。
代表例は次のようなケースです。
空き巣犯罪
人の家の財物を窃取するために住宅に侵入する行為は、窃盗罪の目的で住居侵入罪を犯していることになり、この2つの犯罪は牽連犯の関係にあります。
不同意性交目的の侵入
深夜に一人暮らしの女性の自宅に侵入して不同意性交を行おうとする場合です。
不同意性交等罪の目的で住居侵入罪を犯していることになるため、この2つの犯罪は牽連犯の関係にあります。
放火犯
人の家に放火する目的で人の家の敷地内に侵入する場合です。
放火罪の目的で住居侵入罪を犯していることになるため、この2つの犯罪は牽連犯の関係にあります。
牽連犯となった場合は、複数の犯罪のうち、「その最も重い刑により処断する」ものとされています(刑法54条)。
例えば、
- ・空き巣犯罪ならば、窃盗罪の10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金。
- ・不同意性交目的の侵入ならば、不同意性交等罪の5年以上の有期拘禁刑。
- ・放火犯ならば、現住建造物等放火罪の死刑又は無期若しくは5年以上の拘禁刑。
これらの刑罰が科せられるため、住居侵入、建造物侵入の軽い刑罰にはなりません。
住居侵入、建造物侵入罪のみが成立するケースとは?
住居侵入、建造物侵入罪のみが成立する場合としては次の2つのケースが代表例です。
チラシやパンフレットの投函が禁止されている分譲マンションの共用部分に立ち入って、チラシやパンフレットの投函を行う場合。
分譲マンションの場合、専有部分と共用部分があります。
このうち、専有部分は住民のプライベート空間なので無断で立ち入ると住居侵入罪になるのは分かると思います。
さらに共用部分であっても、管理組合が管理しているスペースなので、「人の看守する建造物」ということができるため、建造物侵入罪が成立するというのが判例の考え方です(最判平成21年11月30日 刑集 第63巻9号1765頁)。
そのため、チラシやパンフレットの投函が禁止されている分譲マンションの共用部分に立ち入って、チラシやパンフレットの投函を行うと、建造物侵入罪が成立してしまいます。
訪問先から出ていくように求められたのに退去しなかった場合。
例えば、訪問販売のセールスマンが訪問先の住民から、セールスはお断りだから出ていくように求められたとします。
それでも粘り強く、セールストークを続けて、住民が押し返そうとしているのにドアに足を入れて玄関を施錠できないようにした場合です。
住民から通報されて、警察に事情を聴かれれば、高い確率で、不退去罪が成立し、逮捕されてしまいます。
住居侵入、建造物侵入が成立する境界とは
住居侵入、建造物侵入とは、「人の住居、人の看守する邸宅、建造物」に正当理由なく侵入した場合に成立する犯罪です。
では、人の家の敷地内に立ち入っただけで、建物には入っていない場合は、住居侵入罪にならないのかと疑問を抱かれるかもしれません。
この点、判例は、建物に付随する囲繞地(いにょうち)も「人の住居、人の看守する邸宅、建造物」に含まれるとの解釈を示しています。
ここでいう囲繞地とは、垣根、塀、門など、土地の境界を示す設備によって囲まれた場所のことを意味します。
例えば、一戸建てであれば、塀や門の内側は、囲繞地に当たるため、正当な理由がなく無断で立ち入れば、住居侵入罪が成立します。
また、学校や警察署といった公共施設でも、用がないのに無断で敷地内に入れば、建造物侵入罪に該当します。
更に、敷地の中に入る行為だけでなく、塀によじ登るだけでも建造物侵入罪に該当することがあります。
例えば、犯人が高さ2.4メートルのコンクリート製の塀に囲まれた警察署内に駐車されている捜査車両を撮影する目的でその塀によじ登った事例があります。
最高裁は、本件塀は建造物の一部を構成するものとして建造物侵入罪の客体に当たると解した上で、本件塀の上部へ上がった行為は、建造物侵入罪が成立すると判断しました(最決平成21年7月13日 刑集 第63巻6号590頁)。
住居侵入、建造物侵入罪で逮捕された場合は身体拘束期間が長くなる?
住居侵入、建造物侵入罪で逮捕された場合は、身体拘束期間が長くなることもあります。
住居侵入、建造物侵入罪は、空き巣(窃盗罪)、性犯罪、盗撮・のぞき等の他の犯罪目的の手段となるため、余罪の捜査が行われることもあります。
その地域で、車上荒らし、空き巣被害が多発している場合は、他の犯罪も行ったのではないかと疑われやすいでしょう。
また、住居侵入罪は、住民に恐怖を与えているため、警察としても、そう簡単に身体拘束を解くわけにはいかないという事情もあります。
そのため、空き巣とは無関係で、住民を襲撃する意図などないというのであれば、弁護士に依頼して、しっかりと弁護活動を行ってもらわないと冤罪に巻き込まれかねません。
住居侵入、建造物侵入罪で逮捕された場合の弁護活動
住居侵入、建造物侵入罪で逮捕された場合に弁護士が行う弁護活動は他の犯罪とほぼ同じです。
弁護士は依頼を受けると、住居の住民や建造物の管理者との示談成立を目指します。
早期に示談を成立させれば、逮捕後の身体拘束期間が短くなりやすいですし、起訴猶予、不起訴処分によって前科が付かなくなる確率が高まります。
起訴されてしまった場合でも、示談を成立させておけば、執行猶予付き判決が出る可能性が高くなります。
また、冤罪に巻き込まれることを防ぐためには、早期の釈放を目指すことが大変重要です。
逮捕後、送検されて勾留請求がなされるタイミングまでの間に、証拠隠滅や逃亡のおそれがなく、勾留要件が不存在であることを明らかにする資料を作成して、検察官や裁判官に差し入れる必要があります。
さらに警察での取り調べの際にも、身に覚えのない犯罪について追及されないよう、取り調べを受ける際のポイントについてアドバイスを行います。
まとめ
住居侵入、建造物侵入罪で逮捕されてしまった場合は、余罪の捜査のために身体拘束期間が長くなってしまうことがあります。
長期間の身体拘束を受けてしまうと、精神的にきつくなり、覚えのない犯罪も自白してしまうなど、冤罪に巻き込まれてしまう可能性が高まります。
こうした事態を防ぐためには、早期に弁護士に依頼して弁護活動を行ってもらうことが大切です。
住居侵入、建造物侵入罪自体は、刑罰も軽く、執行猶予も付きやすいですが、余罪捜査が行われやすいだけに弁護士のサポートが非常に重要になります。