暴行、傷害、傷害致死
暴行、傷害、傷害致死は、相手とけんかになってケガを負わせてしまった場合に成立する可能性がある犯罪です。
酒席で口論になってカッとなって殴ってしまった場合も、酔っぱらっていたから不問ということにはなりません。
暴行、傷害、傷害致死はそれぞれどのような犯罪なのか。
また、暴行、傷害、傷害致死に該当した場合の弁護活動の方針について解説します。
暴行罪、傷害罪、傷害致死罪の違い
相手方に対して殴る蹴るといった暴行をした場合は、相手方の怪我の程度に応じて、暴行罪、傷害罪、傷害致死罪のいずれかの罪に問われるのが一般的です。
暴行罪とは
暴行罪は、殴る蹴るといった暴行をしたものの、相手が怪我を負わなかった場合に科される刑罰です。
刑罰の内容は、2年以下の拘禁刑、30万円以下の罰金、拘留、科料のいずれかで3つの犯罪では最も軽い刑罰になります。
拘留は30日以内、科料は1万円未満です。
傷害罪とは
傷害罪は、殴る蹴るといった暴行の結果、相手が怪我を負った場合に科される刑罰です。
ナイフで刺されて大量出血するといった重傷の場合だけでなく、殴った結果、相手が痛みを訴えていれば、傷害罪に該当します。
過去の判例として、「胸部に疼痛を生ぜしめたときは、たとえ、外見的に皮下溢血、腫脹又は肋骨骨折等の打撲痕が認められなくても身体傷害にあたるものと解すべき」としたものがあります(最決昭和32年4月23日 刑集 第11巻4号1393頁)。
よって、相手にパンチやキックをクリーンヒットさせた場合は、傷害罪に該当してしまう可能性が高いと考えてください。
刑罰の内容は、15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金となっており、暴行と比較すると重くなります。
傷害致死罪とは
傷害致死罪は、殴る蹴るといった暴行の結果、相手が死亡した場合に科される刑罰です。
刑罰の内容は、3年以上の有期拘禁刑です。
傷害罪の場合は、15年以下の拘禁刑ですから実際には、1年の拘禁刑となることもありますが、傷害致死罪では最低で3年以上となっている点で重くなっています。
また、罰金を支払えばよいということにもなりません。
暴行罪に該当する事例
暴行罪の暴行とは、人の身体に対する不法な攻撃方法の一切を意味します。
人に対して、パンチ、キックを繰り出すこと、棒などで殴りかかることは、相手に当たらなくても、暴行と解釈されます。
それ以外にも次のような行為が暴行に該当します。
- ・男女問わず、人の頭をバリカンで刈り上げて坊主にしてしまう。
- ・ロングヘアの女性の髪を掴んではさみで切ってしまう。
- ・人に向けて石を投げつける。
- ・人の顔をめがけて、お清めと称して塩をぶちまける。
- ・人の耳元で太鼓を打ち鳴らす。
このように暴行は殴る蹴るといった典型的な暴力以外にも、幅が広いということです。
傷害罪に該当する事例
傷害罪は、人の身体の生理的機能を毀損した場合に成立する犯罪でその手段は問わないとされています。
相手にパンチ、キックを当てて、打撲傷を負わせるようなケースが典型的な傷害ですが、それ以外にも次のような行為が傷害に該当します。
- ・梅毒患者が梅毒であることを隠して被害者と性交し梅毒に感染させる行為。
- ・隣家の被害者に向けて、連日連夜、ラジオの音声、目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続け、被害者に精神的ストレスを与え、慢性頭痛症等を生じさせる行為。
- ・仕事中の被害者に睡眠薬等を摂取させ、数時間にわたる意識障害及び筋弛緩作用を伴う急性薬物中毒の症状を生じさせる行為。
- ・被害者を不法に監禁し、外傷後ストレス障害(PTSD)を発症させる行為(傷害に当たり監禁致傷罪が成立)。
このように直接的な暴力以外の行為によっても、傷害罪が成立することがある点を押さえておきましょう。
傷害致死罪と殺人罪の違いは?
傷害致死罪と殺人罪はどう違うのでしょうか。
簡単に説明すると、殺意がない場合は傷害致死罪、殺意がある場合は殺人罪に当たることになります。
殺人罪に該当すると、死刑又は無期若しくは5年以上の拘禁刑という重い刑罰を科せられます。
殺意の有無は、加害者が殺意を持っていたかどうかだけでなく、加害者の行為によっても判断されます。
具体的には、凶器の種類、形状、使い方、創傷の部位、程度などです。
例えば、ナイフで複数回にわたり執拗に刺す行為は当然、殺意が認定されますが、接近阻止のためにナイフを振り回していたにすぎない場合は、殺意があるとは言えないと判断されることもあります。
暴行罪、傷害罪、傷害致死罪の弁護活動
暴行罪、傷害罪、傷害致死罪の弁護活動は、加害者が罪を認めているかどうかにより異なります。
罪を認めている場合
暴行罪、傷害罪、傷害致死罪の罪を認めている場合の主な弁護活動は、被害者との示談成立を目指すことです。
この3つの犯罪はいずれも、親告罪ではないため、被害者が告訴しなかったとしても、暴行の事実が確認されれば、警察が捜査を開始し、送検された後、検察官が起訴するかどうか判断することになります。
ただ、逮捕後、早い段階で、被害者との示談を成立させれば、早期釈放につながりますし、不起訴処分となる可能性が高まります。
仮に起訴されたとしても、執行猶予付き判決が出たり、罰金刑で済むこともあります。
示談交渉のポイント
暴行罪、傷害罪、傷害致死罪はいずれも、ケンカから暴行に発展するケースがほとんどだと思われますので、加害者と被害者はお互いにいがみ合っていることも多いでしょう。
このような場合、加害者と被害者が直接、顔を合わせて話し合ってもうまくいきませんし、感情的になってしまい、示談どころではなくなると思います。
その点、弁護士を介して示談交渉を持ち掛ければ、相手方も冷静に話を聞いてくれることもあるため、示談成立の可能性も高まります。
もちろん、示談交渉がうまくいくかどうかは相手方のケガの程度や様々な状況により異なります。
特に、傷害致死罪の場合は、遺族との交渉になりますが、遺族の方が弁護士からの連絡さえも拒むこともあり、示談交渉が難しいこともあります。
また、示談を成立させたとしても、実刑となる可能性も高いです。
いずれにしても、加害者本人は身体拘束を受けていたり、被害者との直接交渉が難しいことも多いため、弁護士に示談交渉を依頼するのが最善と言えます。
正当防衛を主張したい場合
相手に襲撃されたから反撃した。
だから正当防衛だと主張したいこともあると思います。
正当防衛は、急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした場合に成立するものです。
例えば、相手方がナイフで襲い掛かってきた場合に、近くにあった棒状のものをとっさに掴んで反撃しケガを負わせた場合は正当防衛が成立する可能性があります。
ただ、警察はあなたが棒状のもので襲撃者を殴ってケガを負わせた=傷害罪の被疑者としか見ておらず、その経緯については、基本的に考慮しません。
正当防衛を勝ち取るには、犯罪が成立する構成要件該当性、違法性、有責性の3要件を理解したうえで、正当防衛を裏付ける証拠に基づいて、粘り強く主張する必要があります。
そのためには、取り調べを受けている段階から、弁護士のサポートを受けることが必須です。
まとめ
暴行罪、傷害罪、傷害致死罪で逮捕されてしまった場合は、罪を認めるならば、被害者との示談を早期に成立させることで、不起訴にしたり刑罰を軽くすることができます。
正当防衛を主張したい場合は、取り調べの段階から粘り強く主張することが大切です。
いずれにしても、弁護士のサポートが必要になりますので、できる限り早めに弁護士にご相談ください。