過失運転致傷、ひき逃げ、当て逃げ
自動車運転のひき逃げ、当て逃げで被害者が死亡した場合は、ほぼ確実に検挙されてしまいます。
一旦、逃走している以上、逃亡の恐れがあるものとして、逮捕や起訴されやすいですし、早期に釈放される可能性も低くなります。
ただ、弁護士に依頼して被害者との示談を進めれば、逮捕、起訴を免れたり、刑罰が軽くなることもあります。
ひき逃げ、当て逃げはほぼ確実に特定される
自動車を運転していて、人をひいたり、人に当たった場合は、気が動転してしまい、そのまま逃げたくなるのも当然です。
しかし、今の時代、各所に防犯カメラが設置してあります。
コンビニや商店街はもちろんのこと、個人宅でも防犯カメラを設置していることが珍しくなくなりました。
その場では、誰にも見られずに逃げられたつもりでも、ほぼ確実に車両と加害者が特定されてしまうものと考えてください。
令和5年版 犯罪白書のデータからも、ひき逃げ事件の検挙率は年々上昇しており、令和4年の時点で、全検挙率は69.3%、重傷事故検挙率は79.4%、死亡事故検挙率は101.0%となっており、特に死亡事故の検挙率が高いことがうかがえます。
参考
https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/70/nfm/n70_2_4_1_2_3.html
ひき逃げ、当て逃げは3重の犯罪を犯したことになる
ひき逃げ、当て逃げをすることは、人を鈍器で殴って逃亡するのと同じです。
人を鈍器で殴って逃亡した場合、刑法上は、傷害や暴行罪といった罪に問われるだけですが、自動車でひき逃げ、当て逃げした場合は、3つの犯罪を犯したことになり、より厳しい刑罰に処せられることもあります。
道路交通法72条違反
交通事故を起こした場合は、運転者等は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じる義務があります。
いわゆる「救護義務」です。
また、運転者は、直ちに、警察官に対して、交通事故発生日時等を報告する義務があります。
いわゆる「報告義務」です。
運転者等が、ひき逃げ、当て逃げをした上に、この2つの義務を履行しなかった場合は、道路交通法に基づく刑罰を科せられてしまいます。
具体的には次のとおりです。
救護義務違反の場合は、10年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処せられます。
なお、交通事故が、被害者の信号無視や飛び出し等、運転者以外に原因がある場合は、5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金になります。
報告義務違反については、3月以下の拘禁刑又は5万円以下の罰金に処せられます。
自動車運転死傷行為処罰法5条違反
自動車の運転により、人を死傷させたこと自体についても罪に問われます。
基本は、自動車運転死傷行為処罰法5条の過失運転致死傷罪です。
自動車の運転上必要な注意を怠ったことで人を死傷させた場合は、7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処せられます。
また、運転者が無免許だった場合は、10年以下の拘禁刑に加重されます。
被害者のケガの程度が軽い場合は、情状により、刑が免除されることもありますが、ひき逃げ、当て逃げにより、救護義務、報告義務を怠った場合は、免除されない可能性も高くなってしまいます。
ひき逃げ、当て逃げの刑罰は併合罪として加重されてしまう
自動車でひき逃げ、当て逃げした場合は、上記で紹介した3つの罪を犯したことになります。
起訴された場合は、これらの3つの罪は、併合罪として扱われるため、有期拘禁刑に処せられた場合の刑期が長くなります。
具体的には、最長で、3つの犯罪のうち最も長い有期拘禁刑に1.5倍を乗じた刑期に処せられます。
道路交通法72条違反と自動車運転死傷行為処罰法5条違反で最も長い有期拘禁刑は、救護義務違反の「10年以下の拘禁刑」なので、「10年以下」×1.5=「15年の拘禁刑」が最長となります。
ひき逃げ、当て逃げに気づかなかった場合は?
自動車で人をひいたことや当ててしまったことに気づかずに、走り去ってしまった場合も犯罪になるのかと疑問に思う方もいらっしゃると思います。
まず、道路交通法の救護義務と報告義務は、交通事故に気づいたときに課せられる義務と解されています。
そのため、本当に交通事故に気づかないで走り去ったのであれば、救護義務と報告義務違反には問われません。
しかし、人をひいたことや当ててしまった事実には変わりがないため、自動車運転死傷行為処罰法5条の過失運転致死傷罪は成立します。
そのため、刑罰としては、7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
ひき逃げ、当て逃げは逮捕・勾留されやすい?
ひき逃げ、当て逃げを行った車両や運転者を特定した場合、警察は直ちに、逮捕状を取って、被疑者の逮捕に向かいます。
被疑者が自宅にいる可能性のある早朝に警察官が踏み込むことが多いようです。
逮捕後は、48時間以内に警察から検察官へ送致され、24時間以内に検察官が勾留請求を行います。
裁判所に勾留が認められると最長で20日間身体拘束が続きます。
その後、被疑者を起訴するかどうか、検察官が決定します。
逮捕されるかどうかは、被害者の被害の程度にもよります。
被害者が死亡したり重傷を負っている場合は、逮捕に至る可能性が高いです。
被害者が軽傷の場合は逮捕まではされず、在宅事件になることもありますが、いったん逃走していることは、その後の流れで不利になります。
逮捕は、被疑事実について嫌疑があることはもちろん、逃亡や罪証隠滅のおそれがある場合になされます。
また、勾留も、被疑者が逃亡する恐れがある場合に備えて講じられる措置です。
ひき逃げ、当て逃げ事件では、いったん逃走している事実がある以上、逃亡する恐れがあるものとして、逮捕や勾留が認められてしまう可能性が高まります。
さらに、事故を起こした自動車のキズを修理したり、廃車にしていた場合は、罪証隠滅に該当するため、なおさら、逮捕や勾留の可能性が高まります。
もちろん、身代わり出頭させていた場合も、逃亡の恐れや罪証隠滅に該当するので逮捕や勾留の可能性が高まります。
ひき逃げ、当て逃げで逮捕された場合のリスク
ひき逃げ、当て逃げで逮捕された場合は、その他の犯罪と同様に前科がつくなどの様々なリスクがあります。
前科がつく
交通事故は他の犯罪と違って、刑罰が軽く、前科も付きにくいと思うかもしれませんが、交通事故後に逃亡せず、救護義務と報告義務を果たしている場合だけです。
ひき逃げ、当て逃げの場合は、最長で15年の拘禁刑に処せられる可能性があり、決して軽い犯罪ではありませんし、起訴されて、有罪判決を受ければ、前科がついてしまいます。
広く報道されてしまう
交通事故事件は、地元のニュースや新聞などで広く報道される可能性があります。
特に、被害者が幼い子どもの場合、センセーショナルな報道となり、被疑者だけでなく、その家族、職場なども誹謗中傷に晒されてしまうことがあります。
人間関係の崩壊や職場解雇の可能性もある
交通事故が広く知られたことで誹謗中傷に晒されるような状態になると家族との関係が崩壊し、離婚や別居を余儀なくされることもあります。
また、長期間身体拘束されてしまうことから、職場からも解雇されてしまうこともあります。
ひき逃げ、当て逃げで逮捕・起訴されないようにするには?
ひき逃げ、当て逃げで逮捕・起訴されることを回避するためには、2つの行動をとることが大切です。
警察に自首する
できる限り早く、警察に自首して、ひき逃げ、当て逃げ事件を起こしてしまったことを報告しましょう。
自首すれば、逃亡の恐れや罪証隠滅の恐れが低いものとして逮捕されないこともあります。
仮に逮捕・起訴されたとしても、刑の減軽を受けられる可能性があります。(刑法42条)
弁護士が同伴すれば、単に、ひき逃げ、当て逃げ事件について報告するだけでなく、被害者との示談交渉を進めることや任意の出頭要請には必ず応じることを警察の捜査官に理解してもらい、逮捕を回避しやすくすることもできます。
被害者との示談を行う
できる限り早く、被害者との示談を成立させることです。
そのためには、被害者の情報を知る必要があるため、一度は警察に赴く必要があります。
ただ、加害者本人には被害者の個人情報を教えてくれないこともあるため、弁護士の同伴が必須です。
被害者との示談交渉も、弁護士に任せた方が成功率が高まります。
示談を成立させて、被害を弁償すれば、身体拘束を受けた場合の早期釈放、不起訴処分、起訴後の執行猶予の獲得につながりやすくなります。
ひき逃げ、当て逃げ事件を起こした場合はすぐに弁護士にご相談ください
ひき逃げ、当て逃げ事件は、3つの犯罪を犯したことになるため、刑罰が重くなりがちですし、逮捕や起訴されやすい犯罪です。
ただ、早期に自首したり被害者との示談を成立させることで、逮捕・起訴を免れることもできます。
ひき逃げ、当て逃げ事件を起こした直後は、気が動転してしまうかと思いますが、どうしたらよいか分からない場合は、すぐに弁護士に相談してください。