大麻、覚醒剤
大麻、覚醒剤に代表される薬物犯罪は、様々な法律により規制されています。
最近では、合法ドラッグ等のように合法なのか違法なのか分かりにくい薬物も出ていますが、いったん薬物犯罪に手を出してしまうと、逮捕された後で長期間身体拘束を受けてしまいます。
薬物に関してどのような法規制があるのか、薬物犯罪で逮捕された場合の弁護活動について解説します。
刑罰の対象となる薬物とは
刑法には、あへん煙に関する罪のみが規定されており、大麻や覚醒剤についての規定はありません。
刑法制定当時の明治時代は、危険な薬物はアヘンだけでしたが、現在では、大麻や覚醒剤をはじめとして、様々な薬物が登場しています。
こうした薬物に関する規制を刑法だけで規定するのは難しいことから、刑法とは別に特別刑法と呼ばれる分類の法律が設けられています。
刑法上の薬物規制
刑法上規制されているのは、アヘンだけです。
アヘンは、輸入、製造、販売、所持することはもちろん、実際にアヘンを吸食した場合も処罰の対象となっています。
アヘンそのものだけでなく、アヘン煙を吸食する器具も同様に規制されていますし、アヘンを吸食する場所を提供した場合でも罰せられます。
また、アヘンは、けしから採取できるもので、医療用のモルヒネなどの原料になりますが、あへん法により、あへんの輸入、輸出、売買は国だけが独占して行うことができるとされており、一般の人は、けし栽培も禁止されています。
薬物に関する特別刑法とは
刑法では、アヘンのみが規制対象になっていますが、現在では、刑法以外の様々な法律により、多様な薬物が規制されています。
麻薬及び向精神薬取締法
アヘンのほか、ヘロイン(ジアセチルモルヒネ)やコカイン、LSD、MDMAなどの薬物を規制する法律です。
麻薬や向精神薬を医療用目的などで扱うためには、厚生労働大臣や都道府県知事の免許を受けなければならず、取り扱いについても様々な遵守事項が設けられています。
免許を持っていない人がみだりに所持した場合は、以下のように、刑罰の対象になります。
- ・ヘロイン(ジアセチルモルヒネ)はみだりに所持、譲渡・譲受などをした場合、10年以下の拘禁刑に処せられます。
- ・コカイン、LSD、MDMAなどの薬物も、みだりに所持、譲渡・譲受などをした場合、7年以下の拘禁刑に処せられます。
- ・向精神薬も、みだりに譲渡し、譲り渡す目的で所持した場合、3年以下の拘禁刑に処せられます。
薬物の危険性の度合いにより、刑罰の重さが異なっている点が特徴です。
大麻取締法(大麻草の栽培の規制に関する法律)
大麻取締法は、大麻草の栽培を規制する法律です。
大麻の栽培は、厚生労働大臣や都道府県知事の免許を受けた人のみに認められています。
それ以外の人が、大麻草をみだりに栽培した場合は、1年以上10年以下の拘禁刑に処せられます。
大麻が育たず、未遂に終わった場合も同様です。
覚醒剤取締法
覚醒剤取締法は、覚醒剤及び覚醒剤原料の輸入、輸出、所持、製造、譲渡、譲受、使用を規制する法律です。
覚醒剤を製造したり取り扱うためには、厚生労働大臣や都道府県知事の指定を受けなければなりません。
覚醒剤を、みだりに、輸出入、製造した場合は、1年以上の有期拘禁刑に処せられます。
営利目的の場合は、無期若しくは3年以上の拘禁刑又は情状により無期若しくは3年以上の拘禁刑及び1,000万円以下の罰金に処せられます。
さらに、覚醒剤を、みだりに、所持、譲渡、譲り受けたり、使用した場合も、10年以下の拘禁刑に処せられます。
営利目的の場合は1年以上の有期拘禁刑、又は情状により1年以上の有期拘禁刑及び500万円以下の罰金に処せられます。
これらの行為はいずれも未遂でも罰せられます。
毒物及び劇物取締法
毒物及び劇物取締法は、医薬品及び医薬部外品以外の毒物及び劇物について、保健衛生上の見地から必要な取締を行う法律です。
薬物犯罪関係では、興奮、幻覚又は麻酔の作用を有する毒物又は劇物は、みだりに摂取、吸入し、又はこれらの目的で所持してはならないと定められています。
具体的には、トルエン並びに酢酸エチル、トルエン又はメタノールを含有するシンナー、接着剤、塗料及び閉そく用又はシーリング用の充てん料が取り締まりの対象になっています。
摂取、吸入目的であることを知りながら、販売、授与した場合は、2年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するものとされています。
また、摂取、吸入した場合も、1年以下の拘禁刑若しくは50万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するものとされています。
薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)
薬機法は、医薬品や化粧品について総合的に規定している法律ですが、いわゆる危険ドラッグが規制対象になっています。
危険ドラッグについては、様々なものが次々に登場するため、それらの製品一つ一つを法改正で規制していては追いつきません。
そこで、厚生労働大臣が、中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚の作用を有する蓋然性が高く、かつ、人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生するおそれがある、いわゆる危険ドラッグについて、薬事審議会の意見を聴いて、「指定薬物」に指定して規制できるようにしています。
指定薬物となった場合は、医療等の用途以外の用途に供するために製造、輸入、販売、授与、所持、購入、譲り受けることや、医療等の用途以外の用途に使用することが禁止されます。
これに違反し、営業目的で製造、輸入、販売、授与、所持した場合は、5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するものとされています。
それ以外の場合も、3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するものとされています。
オーバードーズ(過剰摂取)
オーバードーズ(過剰摂取)は、薬局やドラッグストアで購入できる風邪薬や咳止めなどを大量・頻回に服用することです。
2024年の時点で法的な規制はありませんが、今後、薬機法改正により、乱用の恐れがある薬については、大容量や複数個の販売が禁じられる見通しです。
オーバードーズを繰り返した場合、深刻な肝障害や心肺停止により死亡してしまうこともあるため、医療機関や精神保健福祉センターなどに相談してください。
薬物犯罪の特徴
大麻、覚醒剤に代表される薬物犯罪は、他の犯罪のように明確な被害者はいません。
しかし、いったん薬物に手を出してしまった人は、自力で薬物依存から抜け出すことは難しく、日常生活に大きな影響が出てしまいます。
再犯率も高く、薬物事犯により受刑した者の約半数が出所後5年以内に再び刑務所へ戻るという実態もあります。
その意味で、薬物犯罪を犯してしまった人自身が、被害者でもあると言えます。
また、薬物を摂取した人が、交通事故や死傷事件を起こすといった形で犯罪が連鎖してしまうこともあります。
そのため、薬物に手を出してしまった場合は、薬物再乱用防止プログラムを受けるなどして、薬物依存離脱に向けて行動することが非常に重要になります。
薬物犯罪の弁護活動
薬物犯罪で逮捕された場合も、通常の犯罪と同様に、逮捕後に勾留され、起訴前だけでも最大23日間身柄が拘束される可能性が高いです。
薬物犯罪は被害者がいないため、被害者との示談成立による早期釈放を目指すことが難しいのが実情で、残念ながら、弁護士にできることも限られます。
ただ、弁護士に相談することにより取り調べを受ける際にどのような点に注意すべきかといったアドバイスを受けることができます。
例えば、取り調べで、実際よりも使用量や頻度が多かったかのような供述調書を作成されてしまい、薬物常習犯にされてしまうと、刑期が長くなってしまいますが、要所要所で弁護士のアドバイスを受けておけば、こうした事態を防ぐことができます。
また、薬物犯罪に関して身に覚えがない場合は、なおさら、弁護士に相談し、無罪を勝ち取るための弁護活動を行ってもらうべきです。