不同意わいせつ・強制性交
2023(令和5)年7月の刑法改正により、性犯罪関係の法律が整理されて、不同意わいせつ罪、不同意性交等罪が創設されました。
相手が嫌がっている場合や抵抗できない状況でわいせつな行為や性行為が行われた場合は、不同意わいせつ罪、不同意性交等罪に該当することがあります。
まだ、被害者が16歳未満の場合は、嫌がっているかどうかにかかわらず、犯罪となることがあります。
不同意とは?
不同意わいせつ罪、不同意性交等罪は、不同意の状況で行われる行為を罰する類型ですが、不同意の状況とは、次のような事由により同意しない意思を表明することが難しい状況にある場合のことです。
- ・暴行や脅迫により抵抗できない状態にある。
- ・心身に障害を生じさせた状態にある。(身体障害、知的障害、発達障害、精神障害等。一時的なものも含む。)
- ・アルコールや薬物により抵抗できない状態にある。
- ・睡眠中や意識が朦朧とした状態にある場合。
- ・拒否や同意する間もなく押さえつけられた場合。
- ・恐怖、驚愕している状態を利用した場合。(いわゆるフリーズの状態。)
- ・虐待に起因する心理的反応を生じさせた場合。(抵抗しても無駄だと考える心理状態や恐怖心を抱いている状態。)
- ・経済的又は社会的関係上の地位を利用している場合。(金銭その他の財産に関する関係、家庭・会社・学校といった社会生活における関係を広く含む。拒否すると自らやその親族等に不利益が及ぶことを不安に思う状態。)
また、次のような形で誤信させた場合も不同意の状況にあるものとして扱われます。
- ・行為がわいせつなものではないと誤信させた場合。
- ・行為者について人違いをさせた場合。
わいせつ行為とは
わいせつな行為とは、「性交等」以外の性的な行為全般を意味します。
公然わいせつ罪等と同じで、判例により、「徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し善良な性的道義観念に反するもの」との定義づけがなされています。(最判昭和26年5月10日 刑集 第5巻6号1026頁)
ただ、わいせつ行為を他人に見せつける公然わいせつ罪と異なり、被害者が直接わいせつ行為を受けるという犯罪類型であるため、わいせつ概念は広く捉えられることになります。
例えば、カップルが路上で立ったままキスをしていたとしても、ほとんどの場合、公然わいせつ罪に問われることはありません。
しかし、不同意の状態にある女性が、加害者から無理やりキスされた場合は、不同意わいせつ罪に該当することになります。
また、かつては、加害者のわいせつ行為は、「加害者の性欲を刺激興奮させ、又は満足させる性的意図」を伴うものでなければならないと解されていました。
しかし、現在では、加害者が性的意図を有していなくても、わいせつな行為に該当するとの解釈がなされています。(最大判平成29年11月29日 刑集 第71巻9号467頁)
例えば、加害者が、被害者の女性に対して、性的な興味を抱いていないものの、辱める目的だけで女性の服を脱がせて裸にしたような場合でも、不同意わいせつ罪が成立することになります。
性交等とは
性交についてもかつては、妊娠に至る可能性のある性行為のみを意味し、その他の行為はわいせつ行為に当たると判断されていました。
しかし、現在では、より広く解釈されており、具体的には次の4つの行為が性交等に当たるものとされています。
- ・性交
- ・肛門性交
- ・口腔性交
- ・膣や肛門に身体の一部(陰茎を除く。)や物を挿入する行為であってわいせつなもの
被害者が16歳未満の場合
被害者が16歳未満の場合は、被害者が不同意の状態にあるかどうかに関係なく、不同意わいせつや不同意性交等の犯罪が成立してしまうことがあります。
被害者が13歳未満の場合
加害者の年齢に関係なく、不同意わいせつや不同意性交等の犯罪が成立します。
13歳未満の場合、被害者が性行為やわいせつの意味を理解しておらず、加害者がその状況に乗じて行為する可能性が高いためです。
被害者が13歳以上16歳未満の場合
加害者が被害者より5歳以上年長の場合は、不同意わいせつや不同意性交等の犯罪が成立します。
例えば、17歳の少年が15歳の少女と性行為をしても、少女の同意を得ていれば、犯罪にはなりません。
しかし、21歳の男子大学生が15歳の少女と性行為をした場合は、少女の同意があっても不同意わいせつや不同意性交等の犯罪が成立します。
婚姻関係の有無を問わず成立する
婚姻関係にある夫婦が、性行為をすることは、公然わいせつ罪に該当しなければ何ら問題はありません。
しかし、一方が性行為を拒絶しているにも関わらず、一方が無理やり性行為を行った場合は、不同意わいせつ罪、不同意性交等に該当することが明記されました。
例えば、配偶者からDV被害を受けており、不同意の性交等を伴う場合は、不同意性交等罪の刑事責任を追及できる可能性があります。
性犯罪の公訴時効期間の延長
公訴時効とは、犯罪行為が行われた時から一定期間経過すると、検察官が起訴することができなくなる制度のことです。
長い時間が経過してしまうと、明確な証拠や証言を得られなくなり、そのような不明確な状況で被疑者に判決を出すことは難しくなるためです。
しかし、現在では、様々な犯罪で、公訴時効期間の延長が図られており、2023(令和5)年7月の改正でも性犯罪関係の公訴時効が延長されました。
- ・不同意わいせつ罪は、前身の強制わいせつ罪の7年から12年に延長
- ・不同意性交等罪は、前身の強制性交等罪の10年から15年に延長
このように一律に5年間、公訴時効が延長されました。
また、被害者が18歳未満の場合は、公訴時効が進行しない措置が取られています。(刑訴法250条4項)
例えば、12歳の少女が不同意わいせつの被害を受けた場合は、少女が18歳に達してから、12年間の公訴時効がカウントされます。
つまり、公訴時効は実質、12年+ 6年=18年になるということです。
不同意わいせつと不同意性交等の刑罰
不同意わいせつ罪の刑罰は、6月以上10年以下の拘禁刑です。
不同意性交等の刑罰は、5年以上の有期拘禁刑です。
不同意性交等の刑罰の方が重い刑罰になっており、また、最低刑罰が5年以上の有期拘禁刑なので、「3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」の刑罰が言い渡される場合に検討される執行猶予も原則として付きません。
不同意わいせつ罪・不同意性交等罪で逮捕された場合は?
不同意わいせつ罪・不同意性交等罪で逮捕された場合も逮捕後の流れは、他の犯罪と同じです。
逮捕後48時間以内に検察に送致され、検察官が24時間以内に勾留請求するかどうか決定します。
裁判所が勾留を認めると最長で20日間身体拘束が続きます。
早期の釈放や不起訴を勝ち取るためには、弁護士による迅速な弁護活動、とりわけ、被害者との示談を成立させることが重要になります。
犯罪の性質上、警察や検察が加害者に対して被害者の個人情報を伝えないことも多いため、加害者自身が被害者との示談を試みることは難しいです。
また、加害者が謝罪の意思を有していても、被害者が面会を拒絶することもあります。
そのため、他の犯罪以上に弁護士によるサポートが重要で、弁護士に依頼しなければ、被害者との示談はおろか、謝罪さえできません。
不同意わいせつ罪・不同意性交等罪の疑いで逮捕された場合は速やかに刑事弁護専門の弁護士に相談し、サポートを受けてください。