銀行口座を悪用されたらどうする?|犯罪発覚時の注意点と対処法とは

近年、ウイルスに感染させたり、銀行員・警察官などになりすましたりして口座の情報を聞き出す行為が多発しており、大切な銀行口座が乗っ取られるケースが多発しています。
給与の受取や公共料金などの引き落としなど、私たちの生活に欠かせない「銀行口座」が犯罪行為に悪用された場合には、一体どうすればよいでしょうか。
そこで、本記事では銀行口座が悪用された場合の注意点や、押さえておきたい対処法をわかりやすく解説します。

平成17年3月 東京都立上野高等学校卒業 平成23年3月 日本大学法学部法律学科卒業 平成26年3月 学習院大学法科大学院修了 平成27年9月 司法試験合格 アトム市川船橋法律事務所 令和5年1月 西船橋ゴール法律事務所開業 所属:千葉県弁護士会
目次
銀行口座が悪用されるケースが多発している2つの理由
近年、インターネットバンキングを中心に、銀行口座へ不正にアクセスされる被害が多発しています。特に生成AIの進化と共に不正アクセスの手口も巧妙化しており、年令や性別問わず被害に遭うおそれがあるため注意が必要です。
そこで、本章では銀行口座が悪用される理由を2つにわけて解説します。
フィッシングやマルウェアが進化している
インターネットバンキングなどの銀行口座が不正にアクセスされやすくなっている背景には「サイバー犯罪の巧妙化」が挙げられます。
従来の単純なメールによるフィッシング詐欺に加え、高度なマルウェア(悪意のあるソフトウェア)が利用者のパソコンやスマートフォンに侵入し、認証情報を盗み出す手口が多発しているのです。
特に、生成AIの進化は、犯罪の手口を劇的に高度化させています。
生成AIは正規の金融機関のウェブサイトと見分けがつかないほど精巧な偽サイトや、違和感のない自然な日本語の詐欺メールを大量かつ瞬時に生成することを可能にしました。
こうした手口により、利用者が気づかないうちに口座情報が抜き取られる事例が急増しています。
個人だけではなく法人もターゲットに
銀行口座が不正にアクセスされる事例は、個人の口座以外にも被害が確認されています。
預金額が大きい法人の銀行口座も、不正アクセスの新たなターゲットとなっています。
2025年3月には、山形県内の複数の企業に対し、山形銀行をかたる不審な電話がかけられ、銀行口座のログインIDを聞きだされた結果、山形鉄道が約1億円の被害に遭いました。
こうした被害は全国で拡大傾向にあり、被害に遭わないようにするためにも個人・法人問わず銀行口座が攻撃にあっている事実を知っておく必要があります。
【参考URL 】
讀賣新聞オンライン 山形銀行でネットバンキングの不正送金被害相次ぐ…行員名乗る電話でログインIDなど盗み出す(2025年3月11日配信)
乗っ取られた銀行口座は何に悪用される?
もしも大切な銀行口座が乗っ取られた場合には、一体どのような問題が起きるおそれがあるでしょうか。
そこで、本章では不正に乗っ取られた銀行口座のトラブルについて、詳細を解説します。
口座名義人の預金を奪われる
最も直接的な被害は、銀行口座のログインIDの認証情報を盗まれたことによる不正送金です。
犯人は盗み出した情報を使って、口座名義人になりすましてログインし、名義人の預金を犯人自身の口座や、他の不正な口座へと全額、あるいは可能な限り送金します。
この被害に遭うと、生活資金や事業資金を一瞬にして失うことになり、深刻な経済的打撃を受けてしまいます。
詐欺行為に悪用される
銀行口座が乗っ取られた場合、「犯罪収益の受け皿」としても悪用されます。
振り込め詐欺、オレオレ詐欺など詐欺行為に悪用
高齢者などを騙し、金銭を振り込ませる際の「受け子口座」として悪用されます。
その他の詐欺行為の受取口座に
未公開株詐欺、投資詐欺など、あらゆる種類の詐欺で被害者から金銭を振り込ませる際の資金プールとして使用されます。
銀行口座が犯罪に悪用された場合、名義人自身が犯罪収益移転防止法などの法令に問われるリスクが生じるだけではありません。
口座が即座に凍結されることに加え、口座名義人は以後、新たに銀行口座を開設することが困難になるなど、社会生活上の大きな不利益を被ることになります。
銀行口座が不正にアクセスされたらどうすればいい?
万が一、ご自身の銀行口座が不正にアクセスされたり、不正な取引が行われたりしたことが判明した場合、被害の拡大を防ぐためにもすぐに相談を開始することが大切です。
そこで、本章では銀行口座に不正にアクセスされた場合の対処法をわかりやすく解説します。
速やかに金融機関へ連絡する
不正アクセスに気づいた場合、一刻も早く取引のある金融機関(銀行や信用金庫など)の窓口やカスタマーサポートへ連絡してください。
必要となる対応は主に以下のとおりです。
不正な出金の停止を依頼する
不正送金が行われていた場合、犯人の口座へ資金が流出するのを食い止めるため、資金移動の緊急停止を依頼します。
電話やフィッシングメールでの誘導にすぐに気づけたら、金融機関に連絡することで送金を阻止できる可能性があります。
口座の利用停止
口座の情報が漏洩している以上、詐欺など犯罪行為に悪用される危険性があります。
さらなる被害を防ぐため、当該口座のインターネットバンキングやATM、デビットカード機能など、すべての利用について停止を依頼しましょう。
警察に相談し被害届を出す
金融機関への連絡と並行して、速やかに最寄りの警察署やサイバー犯罪相談窓口へ相談し、被害届を提出してください。
被害届を出すことは、警察の捜査や被害回復、その他の法的対応を進めるためにも大切です。
| 主な警察の相談先 | 連絡先リンク |
| 最寄りの警察署 | 都道府県警察の連絡先、警察署一覧 ※リンク先に各都道府県警察の連絡先が掲載 |
| サイバー犯罪相談 | サイバー事案に関する相談窓口 ※リンク先から通報・相談が可能 |
警察へ相談する際のポイント
警察へ相談する際には、以下の準備をしておくことが大切です。
証拠の収集を行う
不正な取引の履歴、銀行からの通知メール、フィッシングメール、不審なSMS、マルウェア感染が疑われる際の画面情報など、証拠になる画面のスクリーンショットを保存しておきます。
他の金融機関やスマホ、パソコンへの攻撃がないかも確認
不正アクセスは他の金融機関や証券口座、アプリやスマホの乗っ取りなどへと連鎖している可能性があります。
使用しているスマートフォンやPCのセキュリティ状態も確認し、不正な動きがないかをチェックしてください。
クレジットカードなどの二次被害はないか
銀行口座と連携しているクレジットカードや電子マネーなど、他の決済手段についても不正利用がないか利用履歴を精査し、二次被害を防ぎます。
銀行口座への不正アクセスを防ぐ方法とは
巧妙化するサイバー犯罪や詐欺の手口から大切な資産を守るためには、利用者自身が日頃からセキュリティ意識を高め、予防策を徹底することが大切です。
被害が拡大している今、知っておきたい不正アクセスを防ぐ方法を5つにわけて解説します。
SMSに添付されたリンクを開かない
フィッシング詐欺の多くは、宅配業者や通信会社、あるいは金融機関などを装ったSMS(ショートメッセージ)から始まります。
■SMSを悪用した詐欺メールの主な事例
・実在する運送会社から配達日の連絡が届いた
・金融機関や証券会社からセキュリティに問題があるためURLにアクセスするよう誘導された
・クレジットカードが不正利用されたので、確認するように誘導された
たとえ知っている企業名や金融機関名から「重要なお知らせ」「アカウントがロックされました」といったメッセージが届いた場合でも、なりすましである場合を考え、警戒すべきです。
添付されているリンクは、フィッシングサイトへの誘導が目的の可能性があります。
安易にリンクをタップしたり、個人情報を入力しないようにご注意ください。
もしもメッセージの内容が気になる場合は、SMSのリンクは踏まず、正規の公式サイトにアクセスして、通知や状況を確認してください。
金融機関や警察などをかたる電話に応じない
口座の乗っ取りなどを目論む詐欺グループは、金融機関の職員や警察官、さらには公的機関の職員を名乗って電話をかけてくることがあります。
銀行口座のパスワードを聞き出すとしたり、遠隔操作アプリによる送金操作を仕掛けてくる事例も少なくありません。
こうした特殊詐欺の手法は巧妙化していますが、最初はLINEなどを用いた通話から誘導されるケースが多くなっています。
突然電話が入り、大切な個人情報を伺って来るようなことがあったら、詐欺の可能性が極めて高いでしょう。
電話で「口座情報が必要です」「キャッシュカードを交換する必要があります」といった話が出た場合、その場で情報を提供したり、指示に従ったりしてはいけません。
一度電話を切り、公式ウェブサイトに記載されている金融機関の本当の電話番号へかけ直し、事実確認を行ってください。「折り返し」を徹底しましょう。
副業などを名目で口座の情報を売却しない
SNSやインターネット上の広告で「簡単に稼げる副業」「高額バイト」といった名目で、銀行口座の売却や譲渡を持ちかけられることがあります。
しかし、こうした行為は犯罪に加担するものであり、絶対にやめましょう。
【口座情報の売却により発生するリスク】
・犯罪収益移転防止法違反に該当するおそれがある
銀行口座を他人に譲渡したり、売却したりする行為は、犯罪収益移転防止法違反となり、刑事罰(懲役や罰金)の対象となります。
・口座が犯罪に悪用される
売却した口座は、振り込め詐欺や投資詐欺などの犯罪行為の資金の受け皿として悪用され、名義人自身が事件に関与したとして捜査の対象となります。
パソコンやスマホのセキュリティを強化する
フィッシングやマルウェアの脅威が増す中、利用端末のセキュリティ設定を最新の状態に保つことも不正アクセスを防ぐための基本です。
パソコンのOS(Windows/macOS)やスマートフォンのOS(iOS/Android)、そして利用しているアプリは、セキュリティ上の脆弱性が発見されるたびにアップデートされます。
自動アップデートを有効にし、常に最新の状態を保ちましょう。
インターネットバンキングや重要なサービスには、推測されにくい複雑なパスワードを設定し、可能な限り二段階認証(多要素認証)を有効にしてください。
パスワードは他のサービスと使い回さないようにしましょう。
弁護士へ銀行口座に関するトラブルを相談した方がよいケース
不正アクセスや口座の悪用に関するトラブルは、法的な問題や複雑な金銭のやり取りが絡むことが多く、専門的な知識が必要です。
特に以下のケースでは、早期に弁護士へ相談することがおすすめです。詳しくは以下のとおりです。
副業詐欺や投資詐欺に絡んで被害に遭っている
ご自身が詐欺に遭って多額の金銭を振り込んでしまった、あるいは、不正な投資話の資金移動に利用されてしまった場合など、銀行口座の乗っ取りだけではなく、詐欺被害にも遭われている場合、二次被害や被害の回復に向けて弁護士への相談がおすすめです。
銀行口座の不正利用や乗っ取りの背景には、高度に組織化された詐欺グループが潜んでいます。
ニュースでも盛んに報道されているように、海外に拠点を持つグループが多く詐欺被害後の追跡が困難なケースも多くなっています。
ただし、早期の相談で解決できる可能性はあります。
まずは早急に弁護士へ相談し、どのように被害回復を目指すか相談することがおすすめです。
自身の銀行口座を売却してしまった
「口座を売却する行為」は、たとえ生活に困窮していたとしても犯罪収益移転防止法違反にあたる犯罪行為です。
口座が凍結されるだけでなく、刑事罰の対象となる可能性があります。
SNS上でのアルバイトや、副業をかたる詐欺に誘導されたりなどで、銀行口座を売却してしまった場合は速やかに弁護士へ相談されることがおすすめです。
弁護士に相談すべきこと
・警察から逮捕された場合の対応
・金融機関から連絡された場合の対応 など
口座売却後は犯罪に悪用されるリスクが高く、金融機関のサービスが停止するだけではなく警察から取調べを受ける可能性が高くなります。
西船橋ゴール法律事務所の刑事弁護士は、逮捕された場合についてのアドバイスも可能です。
関連記事:口座開設に潜む罠?詐欺に加担しないために知っておくべき知識と巻き込まれた時の対応とは
銀行口座とあわせて振り込め被害に遭ったら
銀行口座が乗っ取りだけではなく、振り込め詐欺の被害にも遭ってしまった場合には救済策も用意されています。詳しくは以下のとおりです。
振り込め詐欺救済法による被害回復とは
口座が振り込め詐欺などの被害に遭ってしまった場合、「振り込め詐欺救済法」が適用されます。
被害者が詐欺グループ側に振り込んでしまった口座を警察と該当口座がある金融機関に届け出ると、犯罪に利用された不正口座が凍結されます。
その凍結口座に残っている残高を、裁判所を通さずに被害者に公平に分配する手続きが進められます。
全額が戻ってくるとは限らず、詐欺グループ側がお金を口座から引き出してしまうと分配できないため、迅速に手続きを行う必要があります。
詳しくは以下金融庁のリンクをご確認ください。
参考URL 金融庁 振り込め詐欺等の被害にあわれた方へ
まとめ
銀行口座の不正利用や乗っ取り被害は、今や誰にでも起こる可能性があります。
特に生成AIの発達により、詐欺メールや偽サイトの精度が高まり、巧妙な手口が増えているため日頃から注意が必要です。
また、詐欺に誘導された結果、不正に口座を売却してしまうなどトラブルに巻き込まれるおそれもあります。
こうした被害を防ぐためには、「怪しいリンクを開かない」「電話で個人情報を伝えない」「口座を他人に譲らない」という基本を徹底し、セキュリティ意識を常に高めておくことが大切です。
もしも不正アクセスや不正送金が発覚した場合は、弁護士に相談し、取るべき対策や注意点のアドバイスを受けましょう。
銀行口座の不正利用等でお困りの方は、西船橋ゴール法律事務所の刑事弁護士までご相談ください。
