口座開設に潜む罠?詐欺に加担しないために知っておくべき知識と巻き込まれた時の対応とは

最近、口座開設詐欺が増えています。
犯罪だと理解していなくても犯罪行為に加担すると罪に問われます。
現在、知らないうちに犯罪行為に加担してしまっていたという人が増加しています。背景にはインターネットを悪用した事例が関係しています。
では、口座開設詐欺とは、どのようなものなのでしょうか?
今回は、口座開設詐欺について詳しく解説します。

赤井耕多
犯罪に巻き込まれないためにも、ぜひご一読ください。
この記事でわかること
① 口座開設詐欺とは何か
② 加担してしまった場合に問われる罪
③ 加担することで生じるリスク
④巻き込まれたときにとるべき対応

法政大学法学部卒業
学習院大学法科大学院修了
アトム法律事務所
アトム市川船橋法律事務所
令和5年1月 西船橋ゴール法律事務所開業
所属:千葉県弁護士会
目次
口座開設詐欺とは?
銀行口座を悪用した詐欺行為は多く存在します。
中でも、次の詐欺に騙される被害者は増加傾向です。
✅ フィッシング詐欺
銀行などの実在する企業になりすまして顧客に偽のメールを送り、偽サイトへ誘導して個人情報や口座情報を入力させて盗み取る手口
✅ 還付金詐欺
税金や社会保険料などを還付すると偽り、ATMを操作させお金を振り込ませる詐欺
✅ 振り込め詐欺
家族や警察官などになりすまし、お金を振り込ませる手口。オレオレ詐欺や架空請求詐欺なども含まれる。
上記のように、銀行口座を悪用した詐欺行為は「銀行口座詐欺」と呼ばれています。上記の詐欺に巻き込まれた方は、基本的に被害者です。
しかし、銀行口座詐欺の内容によっては被害者ではなく加害者側になってしまうケースがあります。
それが「口座開設詐欺」です。
口座開設詐欺とは、開設した口座を売買したり譲渡したりする行為を指します。
最近増えている手口としては、口座を数万円で買い取るというメッセージをSNSなどに書き込み応募してきた人に口座を開設させ実際に買い取るという手口です。
「口座を開設するだけで数万円」「誰でも簡単にお小遣いGET」「すぐに現金が手に入る」といった、甘い言葉に騙される人が増えています。
また、実際に口座を売却して現金を手に入れた人が知り合いに勧めることで被害が拡大するケースも珍しくありません。
ただし、口座の売買は購入した側だけでなく売却した側も罪に問われる犯罪行為です。
たとえ、犯罪行為だと知らなかったとしても、罪を免れることはできません。
そのため、騙されていたとしても、口座を開設して売却した方も罪に問われることがあるのです。この点が、他の銀行口座詐欺とは大きく違うポイントです。
口座開設詐欺に加担するリスク
口座開設詐欺に加担すると、大きなリスクを背負うことになります。ここからは、口座開設詐欺に加担することで生じるリスクについて詳しく見ていきましょう。
口座開設詐欺に加担することで問われる罪
先程もご説明した通り、口座開設詐欺は口座を購入した人だけでなく売却した人も罪に問われます。
なぜなら、口座の売買自体が法律により禁止されているからです。

川口晴久
口座売買と聞くと通帳やカードの売買をイメージされる方もいらっしゃるかもしれませんが、ログインIDやパスワードも口座売買に含まれるので注意してください。
では、口座の売買をするとどのような罪に問われるのでしょうか?具体的には、以下の罪に問われる可能性が高くなります。
口座の売買で問われる可能性の高い罪
・犯罪収益移転防止法違反
・詐欺罪
それでは、それぞれの罪を詳しく見ていきましょう。
犯罪収益移転防止法違反
犯罪収益移転防止法違反とは、犯罪による収益が市場に持ち込まれることを防止するための法律で、違反すると1年以下の懲役か100万円以下の罰金、または、この両方が科せられることになります。
詐欺罪
口座開設詐欺に加担すると、刑法246条で定められている詐欺罪に該当する可能性があります。
詐欺罪とは、他人を欺いて財物を不法に得ようとする犯罪で、詐欺罪で摘発されると10年以下の懲役が科されます。
そもそも、売買を目的とした口座開設は認められていません。
つまり、口座開設者は虚偽の理由によって口座を開設していることになるのです。

赤井耕多
これは、銀行を騙しているのと同じなので、詐欺罪に該当する可能性が高くなります。
銀行口座の凍結
口座開設詐欺に加担すると、口座凍結される可能性があります。
ここで覚えておかなければいけないポイントが、凍結されるのは売買した口座だけではないということです。
口座開設詐欺に加担したことで処罰されると、自分名義の口座が凍結されるだけでなく、新しく口座を開設することができなくなります。
口座が凍結されると、預金の引き出しや振り込みなど口座上で行うすべての取引ができなくなるので、日常生活に大きな支障をきたします。
損害賠償責任
売却した口座が犯罪に利用されると、口座名義人は損害賠償責任を負う可能性があります。
例えば、売却した口座が振り込め詐欺に使用された場合で考えてみましょう。
この場合、加害者は振り込め詐欺を行った実行犯たちです。しかし、被害者は詐欺行為を働いた犯人だけでなく、口座を提供した口座名義人に対しても「不法行為責任」に基づき、損害賠償を求めることができます。
そもそも、口座売買は法律により禁止されています。
その点からも、口座を売却すると悪用される可能性があることは認識できるはずです。
それにも関わらず口座を提供したことは「過失」にあたると判断されます。そのため、損害賠償責任を負う可能性が高くなるのです。
このとき、犯人と連帯して責任を負う「共同不法行為」と判断される可能性があります。

川口晴久
連帯して責任を負うことになると、財産を差し押さえられる可能性があるので注意しなければいけません。
(例)
詐欺の被害額が500万円だったと仮定します。
この場合、被害者は詐欺を働いた実行犯だけでなく、口座提供者に対しても500万円の支払いを請求することが可能です。
逮捕された犯人に損害賠償を支払う財力がない場合は、被害者は口座名義人に賠償を求めることになります。
このような状況になると、口座名義人の給料や預貯金、不動産などが差し押さえられることもあるのです。売却した口座がどのような犯罪に利用されるのかは分かりません。
状況によっては、数千万円の被害が出る事件に使われる危険もあるので注意してください。
多様化する口座開設詐欺の手口
口座開設詐欺と一括りにしても、その手口にはさまざまなものが存在します。
そのため、犯罪に加担しないためにも、どのような手口があるのかを知っておくことは重要です。
ここからは、多様化する口座開設詐欺の手口について見ていきましょう。
SNSでの勧誘
口座開設詐欺が拡大している背景にはSNSの存在が大きく関係しています。
もちろんSNSが悪いわけではありません。通常の使い方をしていれば、知りたい情報を効率よく入手できる便利なツールです。
しかしSNS上に書き込まれているすべての情報が正しいわけではありません。
それどころか、最初から人を騙す目的で書き込まれているものもあります。

赤井耕多
SNSで闇バイトを募集していることもあるので、正しい付き合い方をしなければいけません。
では、口座開設詐欺ではどのような使われ方をしているのでしょうか?代表的なものとしては下記のような書き込みが確認されています。
「口座を貸すだけで毎月固定収入が手に入る」
「手軽に高収入が手に入る」
「眠っている口座を現金化!」
犯罪者たちはSNSで上記のような書き込みをして、銀行口座を貸してくれる人や口座を売ってくれる人を探しているのです。
これらの書き込みを読んだ人の中には簡単にお金が手に入ると思い軽い気持ちで応じてしまう方もいます。
しかし、何度も説明してきたように口座の売買や貸し借りは違法行為です。
どのような書き込みがされていても、口座の貸し借りや売買は行わないでください。
なりすましによる口座開設
銀行口座を売買したつもりはなくても、結果的に銀行口座を開設されているケースもあります。
それが、なりすましによる口座開設です。基本的に、口座を開設するには本人確認書類が必要です。
そのため、なりすましによる口座開設は簡単にできるものではありません。
しかし、本人確認書類が他人の手に渡った場合は話が変わります。
(例)
Aさんは高収入のアルバイトに応募したのですが、面接時の説明で給料の振り込み先を指定されたそうです。
しかし、Aさんは指定された銀行の口座を開設していませんでした。それを聞いた企業側は手間を省くために、口座開設はこちらでやっておくと伝えてきたそうです。
それを聞いたAさんは言われるがまま、本人確認書類などを企業側に数日間渡してしまいました。
結果、Aさんは自分が知らないうちに口座を開設されてしまったのです。
もちろん、面接を行った企業は実在しませんでした。Aさんが、その事実に気付いたのは指定された出勤日である2週間後だったのです。

川口晴久
このような事態を避けるためにも、本人確認書類を安易に他人に渡さないことが大切になります。
これは、企業を名乗る相手でも同じです。
真っ当な経営を行っている企業であれば、本人確認書類の取り扱いを理解しているため、細心の注意を払います。
少なくとも、数日預かるなんてことはしません。
本人確認書類を預かると言われた場合は注意してください。
友人からの勧誘
友人から勧誘されて口座を貸したり売却したりしてしまう方も少なくありません。
友人からの誘いであれば、心理的なハードルが低くなります。
また、実際に友人から使っていない口座を売って数万円を手に入れたという話を聞くと、自分も同じように利益を得たいと考えることもあるでしょう。
ここで問題になるのが、友人も犯罪行為だと気付いていないことです。
「簡単に儲かったから友人にも教えてあげた」というように、善意による行動だと思い込んでいるケースも少なくありません。

赤井耕多
特に、サークルなど多数の人が参加するコミュニティで拡がると、騙される人が雪だるま式に増えていくため、問題は深刻になります。
✅ このような事態に巻き込まれないためには、簡単に儲かる話はないと考えて行動することが必要です。
友人からの誘いであっても、簡単な儲け話にはかんたんに乗らないようにしましょう。
口座開設詐欺に巻き込まれた時の対応
口座開設詐欺に加担してしまったときは、迅速な対応が大切になります。
なぜなら、時間が過ぎれば過ぎるほど、売却した口座が犯罪に使用される危険性が高まっていくからです。
開設した口座が犯罪に使用されると、直接的に犯罪に加担していなくても犯罪被害者から損害賠償を請求される可能性があります。
このような状態になると、解決までには多くの時間がかかるので、早めに動くことが重要です。
では、どのような行動が大切になるのでしょうか?
多くの方は、警察に相談することを思い浮かべるかもしれません。
しかし、開設した口座を売却すると罪に問われると知った人の中には、警察に相談すると自分が逮捕されるのではないかと不安になり、相談にできない方もいます。
このような場合、まずは弁護士に相談するのも1つの方法です。
弁護士に相談することで、警察からの取り調べに対する適切なアドバイスを受けることができます。
また、可能な限り有利な処分を得るための弁護を受けることができるだけでなく、損害賠償請求への対応を行ってくれるため、示談交渉などを任せることも可能です。
さらに、口座が凍結された場合や派生する問題に対しての助言を受けることもできるので、その後の生活を立て直していくこともできます。
時間が過ぎれば過ぎるほど、売却した口座が犯罪に使用される危険性が高まるので、早めの行動が重要です。問題を大きくさせないためにも、巻き込まれた場合は早めの行動を心がけてください。
まとめ
口座売買は法律により禁止されています。購入者だけでなく売却した人も罪に問われる可能性があるので注意してください。
「使っていない口座を貸すだけで副収入が得られる」
「使っていない口座は高値で売れる」
「誰でも簡単に高収入」
このような書き込みを見て、実際に口座を売却したり貸したりして罪に問われた方がいるのです。
知らなかったでは済まされません。犯罪に加担しないためにも、口座の売買や貸し借りには応じないでください。
もし、口座開設詐欺に加担してしまった場合は迅速な対応が求められます。なぜなら、自分名義の口座が悪用されると問題がさらに大きくなってしまうからです。
口座開設詐欺に巻き込まれてしまったと感じたら、一刻も早く弁護士に相談してください。