痴漢してしまった!刑罰の重さ・逮捕や勾留のおそれ・自首するメリットは?

痴漢をしてしまった後、もし発覚したらどうなるのか、バレるか不安になった際に自首するかの選択を悩む方がいると思います。
この記事では、痴漢をしてしまい、今後どうなるか知りたい、どうすべきか悩んでいる方に向け、解説していきます。
この記事でわかること
✅ そもそも痴漢とは何か
✅ 逮捕・勾留のおそれはあるか
✅ 痴漢で自首するメリット

平成17年3月 東京都立上野高等学校卒業 平成23年3月 日本大学法学部法律学科卒業 平成26年3月 学習院大学法科大学院修了 平成27年9月 司法試験合格 アトム市川船橋法律事務所 令和5年1月 西船橋ゴール法律事務所開業 所属:千葉県弁護士会
目次
痴漢とは?何罪が成立する?
痴漢とは、単純にいってしまうと、他人の同意を得ずに淫らな行為を行うことです。
さらに具体的にいうと、痴漢とは、大きく分けて、以下の2種類の行為に分けられます。
・迷惑防止条例違反の対象となるもの
・不同意わいせつ罪に該当するようなもの
迷惑防止条例違反となる痴漢の例
例えば、東京都迷惑防止条例第5条第1項においては、「公共の場所や乗り物で、人に対して、衣服の上からまたは衣服の中に手を入れるなどして身体に触れることにより、著しく羞恥心や不安を覚えさせる行為」としています。
つまり、典型的な痴漢、例えば、服の上から体を触ることや、軽く体を密着させるなどした場合には、迷惑防止条例違反となるといえるでしょう。

赤井耕多
盗撮行為なども、迷惑防止条例違反の対象とする痴漢行為に含まれるでしょう。
迷惑防止条例違反は、各都道府県によって法定刑が異なりますが、例えば、東京の場合は、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金となります。
不同意わいせつ罪に該当する痴漢の例
一般に、迷惑防止条例違反となるか、不同意わいせつ罪となるかをわけるポイントは、行為の悪質さや性的意図の強さです。
単純にいってしまうと、一般的にみて、悪質で性的意図が強いと考えられるのであれば、不同意わいせつ罪の対象となる痴漢行為であるといえます。
(例)
服の上から触る場合→迷惑防止条例違反の対象である痴漢行為となる
服の中に手を入れてしまった場合→不同意わいせつ罪の対象となる可能性が高い
その他に、局部を触る、長時間触り続ける、抱き着く、キスをするなどの行為については、不同意わいせつ罪にあたるものだといえます。
不同意わいせつ罪の場合の法定刑は、6か月以上10年以下であり、罰金刑はありません。

川口晴久
比べてみると、迷惑防止条例違反よりも不同意わいせつ罪の方が重いということがわかります。
痴漢をしても不起訴にできる?
痴漢をした場合には、不起訴になるのでしょうか。また、どのような場合に不起訴になるのでしょうか。
一般的には、迷惑防止条例違反の場合であっても、強制わいせつの事例であっても、示談さえ成立すれば、起訴猶予になる見込みが高いといえます。
また、宥恕文言、つまり、加害者に対する処罰をやめてもらうような文をいいますが、そのような文言がない示談成立であっても、起訴猶予となる場合が多いです。
示談が成立していない被害弁償の場合には、判断は難しいですが、それでも、犯罪の態様が特段悪質などの事情がなければ、起訴猶予となる場合も多いです。
とはいえ、示談が成立しない場合には、起訴されるケースも十分にあります。

赤井耕多
示談の成立の有無が、痴漢事件においては、起訴となるか不起訴となるかの非常に重要な要素なのです。
痴漢で有罪になるとどうなる?
それでは、有罪になった場合、どのくらいの刑罰になるのでしょうか。また、初犯の場合と常習性がある場合で、なにか違いは生じたりするのでしょうか。
迷惑防止条例違反の場合
まず、迷惑防止条例違反の場合には、示談が成立しなかったときは、略式請求を経て罰金刑となることが多いといえます。
略式請求とは?
略式請求とは、刑罰の軽い犯罪(罰金刑がある場合)について、正式な裁判をせずに、書面のみで審理を行い、罰金刑を言い渡すという手続きのことです。略式請求では、言い渡しをすることができるのは、罰金刑のみになります。
それでは、罰金刑となった場合、だいたいどの程度の金額になるでしょうか。
一般的には、初犯で罰金20~30万円の略式請求となり、2犯で50万円程度の略式請求、3犯で公判請求となる事例が典型的なものだといえます。
とはいえ、これは、あくまで一般的なものであり、最終的には、犯情や前科の数、示談の有無などが総合考慮されて判断されますから、あくまで目安となります。
犯情とは、犯罪の行為態様や、犯罪の動機、犯罪による被害結果などの犯罪に関する事情のことをいいます。
不同意わいせつ罪の場合
不同意わいせつ罪の場合には、罰金刑が規定されていません。そのため、罰金刑のない不同意わいせつ罪の場合には、略式請求にはならず、示談が成立しなければ、公判請求となります。それでは、公判請求となった場合に、言い渡される刑罰はどの程度のものになるでしょうか。
まず、初犯の場合は、執行猶予付きの判決となるケースがほとんどであるといえます。もっとも、犯行態様が悪質な場合などには、初犯から実刑の可能性も存在します。
しかし、初犯でない場合、執行猶予付きを含め、前科がある場合には、実刑が選択される可能性が非常に高くなります。
もっとも、不同意わいせつで実刑判決が出た場合であっても、重い期間の懲役刑が科される事案は少ないといえます。おおよそ、1年以下となる場合が多く、仮に、執行猶予中に再犯を犯した場合であっても、言い渡される刑罰が、懲役1年以下となる場合も多いです。そのため、再度の執行猶予が認められる場合も多いといえます。
また、刑の全部ではなく、一部の執行猶予が認められる場合もあります。
痴漢で逮捕・勾留されるリスクはある?
痴漢では逮捕されないケースや、逮捕後に釈放されるケースが多い
それでは、痴漢をした場合に、逮捕・勾留がなされるリスクは、どのくらいあるでしょうか。
痴漢事件の場合には、逮捕されないケースや、逮捕されても勾留はされずに釈放されるケースが多いといえます。検察官も、勾留請求はしない場合が多いです。これは、罪名が、迷惑防止条例違反でも、不同意わいせつでも、あまり違いはありません。
なぜかというと、痴漢というものは、突発的に行われるものが多く、痴漢をしてしまった人も、たいていは身元が安定し、逃亡の具体的・現実的危険性が乏しいと考えられるからです。
身元が安定しているとなぜ逮捕・勾留されないことに繋がるの?

川口晴久
まずは、そもそも逮捕・勾留とはなにかについて、説明します。
【逮捕とは】
そもそも、逮捕とは、罪を犯したと疑うに足りることが認められ、罪証隠滅・逃亡のおそれがある場合に行われる、留置所に身柄を拘束するためのものです。つまり、罪証隠滅・逃亡のおそれがなければ、逮捕はされません。
【勾留とは】
勾留とは、逮捕から72時間以内に、検察官が裁判所に請求し、裁判所が認めた場合に行われる、留置所・拘置所等の刑事施設に身柄を拘束するために行われるものです。
つまり、住居不定、罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれのどれかが認められなければ、勾留は行われません。

赤井耕多
つまり、逮捕・勾留は、ともに、罪証隠滅や逃亡のおそれがなければ、行われないものなのです。
そのため、家族を持っている場合や、就職している場合などは、逃亡するおそれは基本的にないといえるため、逮捕・勾留がなされるおそれは低いといえます。
また、痴漢の場合は、現行犯逮捕がされることもありますが、この場合であっても、逮捕されて、そのまま勾留されるというケースは、少ないといえます。
身元が安定しない場合や、前科が多数ある場合、不同意わいせつであり、なおかつ犯行態様が悪質である場合などには、逮捕・勾留されてしまう場合もあります。
痴漢をしてしまったら自首するべき?
そもそも自首とは?
自首とは、犯罪を行ったものが、捜査機関に発覚する前に、自ら捜査機関に対して、自身が罪を犯したことを申告することです。
ここで、ポイントなのは、捜査機関が犯人を特定しているかどうかです。
もしも、捜査機関が、犯人を特定しているのであれば、自らが名乗り出たとしても、それは、出頭という扱いになってしまいます。
例えば、ひき逃げ事件などで、犯人の乗車していた車両の車体・車体登録番号が発覚していた場合には、犯人の氏名・住所がいまだ判明していなくても、犯人は特定し、捜査機関に発覚していると認められており、この状態での犯行告白は、自首に当たらないとされているケースがあります。
また、自首は、自分の意思で申し出ることが必要です。
例えば、警察官から取り調べを受けているものが、ほかにも犯罪をしていないかと質問されて、ほかの犯行を自供した場合などは、自首にあたりません。
自首の効果
自首の効果としては、刑法の42条に、「罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる」としています。つまり、自首をした場合には、刑の任意的減免が認められることになります。
痴漢で自首した場合のメリット
まず、メリットとしては、上述したように、刑の任意的減免がある、つまり、刑が軽くなる可能性があるということです。
あくまで、任意的減免であるため、必ずしも軽くなるとはいえませんが、反省したことを示せば、基本的には、刑は軽くなると考えられます。
また、次のメリットとしては、逮捕・勾留がされるリスクの減少です。自ら名乗り出ているのだから、当然、逃亡のおそれはないと考えられますし、自ら犯行を告白する以上、罪証隠滅のおそれもないといえるでしょう。そのため、逮捕・勾留のリスクはほとんどなくなるといっていいでしょう。また、自首をするということは、反省していることを示すものであるといえます。すなわち、被害者からしてみても、反省の意思があるとみられ、示談の成立する可能性が高くなるといえます。そのため、不起訴となる可能性も高くなるでしょう。この、示談が成立しやすくなる、不起訴の可能性が高くなるというのも、自首をすることのメリットといえるでしょう。
また、逮捕されないということで、報道される可能性もほとんどなくなるといえます。逮捕・勾留がされなければ、在宅捜査という、捜査機関からの呼び出しをうけて、取り調べを受ける以外は、普段と変わらない日常生活を送れる形式での捜査となります。そのため、痴漢行為をしたということが、ほかの人にばれるリスクも低くなるといえます。

川口晴久
いつか逮捕されるかもしれないという恐怖からも解放されることもメリットの一つです。
痴漢で自首した場合のデメリット
デメリットとしては、警察が自身の犯行について知ることになるということです。
自首というのは、捜査機関に発覚していない場合に、認められるものですから、自らが行った犯行について、捜査機関のしるところとなり、捜査が始まってしまいます。
また、先ほど、自首のメリットで、不起訴の可能性が高くなるとの記載がありましたが、不起訴の可能性が高くなるとはいえ、100パーセント不起訴になるとはいえないということもデメリットとしてあげられるでしょう。つまり、せっかく自首したのに、自身の犯行が発覚しただけに終わってしまう可能性もあるということが、デメリットとしてあげられるといえます。
痴漢の自首をする前に、弁護士に相談しよう
痴漢をしてしまった場合、自首には刑罰の軽減や「いつか逮捕されるかもしれない」といった不安がなくなるメリットがありますが、痴漢行為が発覚することで刑事事件化してしまうリスクもあります。
また、自首よりも、被害者との示談を優先し、示談を成立させることで刑事事件化を回避することを目指す方が良い結果をもたらす可能性もあります。
自首すべきか、示談交渉を急ぐべきかは事件の状況次第であり、判断を誤ると将来に大きな影響を与える可能性もあります。
痴漢の自首や示談でお悩みの方は、早い段階で弁護士に相談し、最適な対応を取ることが重要です。